あはれにうけたまは 若紫05章14

2021-05-01

原文 読み 意味

あはれにうけたまはる御ありさまを かの過ぎたまひにけむ御かはりに 思しないてむや 言ふかひなきほどの齢にて むつましかるべき人にも立ち後れはべりにければ あやしう浮きたるやうにて 年月をこそ重ねはべれ 同じさまにものしたまふなるを たぐひになさせたまへと いと聞こえまほしきを かかる折はべりがたくてなむ 思されむところをも憚らず うち出ではべりぬる と聞こえたまへば

05077/難易度:☆☆☆

あはれ/に/うけたまはる/おほむ-ありさま/を かの/すぎ/たまひ/に/けむ/おほむ-かはり/に おぼしない/て/む/や いふかひなき/ほど/の/よはひ/にて むつましかる/べき/ひと/に/も/たちおくれ/はべり/に/けれ/ば あやしう/うき/たる/やう/にて としつき/を/こそ/かさね/はべれ おなじ/さま/に/ものし/たまふ/なる/を たぐひ/に/なさ/せ/たまへ/と いと/きこエ/まほしき/を かかくる/をり/はべり/がたく/て/なむ おぼさ/れ/む/ところ/を/も/はばから/ず うち-いで/はべり/ぬる と/きこエ/たまへ/ば

「かわいそうだとうけたまわりましたご様子は何とも、あのお亡くなりになられたとかいうお方の身代わりに、わたしをお考えくださいませんか。幼くなんとも頼りない年頃に、親身になってくださるはずのお方にまで先立たれ残りました身ですから、自分でも不思議なくらい実のない空しい感じで年月を重ねては参りましたが、同じような御境遇でいらっしゃるので、お仲間とお考えくださいと、心から申し上げたいのですが、こうした機会がめったにありませず、どうお思いであろうがと憚りもせず、言い出しました次第で」と申し上げになると、

あはれにうけたまはる御ありさまを かの過ぎたまひにけむ御かはりに 思しないてむや 言ふかひなきほどの齢にて むつましかるべき人にも立ち後れはべりにければ あやしう浮きたるやうにて 年月をこそ重ねはべれ 同じさまにものしたまふなるを たぐひになさせたまへと いと聞こえまほしきを かかる折はべりがたくてなむ 思されむところをも憚らず うち出ではべりぬる と聞こえたまへば

大構造と係り受け

古語探訪

あはれにうけたまはる御ありさまを 05077

「を」は終助詞。後につなげようにも、続きが悪い。それは終助詞だからである。詠嘆の意味。

過ぎたまひ 05077

亡くなる。

思しないてむや 05077

亡き母の代わりに自分を思ってほしいとの意味だが、もちろんこれは、尼君へ伝えたい内容でなく、紫に直接言いたい内容である。これまでは、尼君にこうこうと紫に話してほしいという間接的な言い方をしてきたが、ここでは直接に紫へ語ることがらを尼君に聞かせているのである。言い方を替えれば、尼君の存在を忘れ、そこにいない紫に語りかけている、一種のモノローグ。光の切迫した思いが、じかに語られる。物語の手法として注意してよいところであろう。

言ふかひなき 05077

言ってもはじまらないとの意味。ひろくいろいろな場面で使われるので、直接的にはどういう意味であるか、その都度考えねばならない。ここは一人では暮らしも立てられない未熟な時という意味を内包する。ここでの「言ふ」は自己紹介する意味。自己紹介にもならないほど幼いころの意味。「睦ましかるべき人」は産みの母である桐壺。

たぐひになさせたまへ 05077

「せ」は尊敬であろう。このあたりから光は尼君を意識して話し出す。

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