ここには常にもえ参 若紫14章14
原文 読み 意味
ここには 常にもえ参らぬがおぼつかなければ 心やすき所にと聞こえしを 心憂く 渡りたまへるなれば まして聞こえがたかべければ 人一人参られよかし とのたまへば
05235/難易度:☆☆☆
ここ/に/は つね/に/も/え/まゐら/ぬ/が/おぼつかなけれ/ば こころやすき/ところ/に/と/きこエ/し/を こころうく わたり/たまへ/る/なれ/ば まして/きこエ/がたか/べけれ/ば ひと/ひとり/まゐら/れ/よ/かし と/のたまへ/ば
「ここには、いつでも参れないのが気がかりなので、気兼ねのいらないところにお移り願うよう申し上げたが、なんとも情けないことに父宮のもとへお移りになるということなので、今よりさらに話もしにくくなりそうだから。誰かひとり付き添って参りなさいな」とおっしゃるので、
ここには 常にもえ参らぬがおぼつかなければ 心やすき所にと聞こえしを 心憂く 渡りたまへるなれば まして聞こえがたかべければ 人一人参られよかし とのたまへば
大構造と係り受け
古語探訪
心やすき所にと聞こえし 05235
諸注は「をかしき絵など多く、雛遊びするところに」と紫を誘った言葉を引くが、その解釈はおかしい。この解釈では、紫にとって「心やすき」場所の意味になってしまう。しかし、文脈を確認すると、この場所はいつも来られなくて気がもめるので、別の場所に移ることを申し上げた、とあるので、別の場所は、光にとって行きやすい場所の意味であるはずである。こう考えると、直接光が「心やすきところに」と申し上げた箇所は本文には見あたらなくなる。だからと言って心配はいらない、ちゃんと関連箇所はあるのだ。光が紫を見初めたあとのこと、「いかにかまへとただ心やすく迎へとりて明け暮れの慰めに見ん」と光は心に思い、それから、手紙攻勢が始まるのである。その手紙の中身は具体的には触れられていないが、「心やすく迎え」とるための文言、すなわち、二条院にいらっしゃいという誘いであったはずである。当該箇所はこの部分を受けるのである。「心やすし」はもちろん光にとってである。