よしある下仕ひを出 若紫12章13
原文 読み 意味
よしある下仕ひを出だして
立ちとまり霧のまがきの過ぎうくは草のとざしにさはりしもせじ
と言ひかけて 入りぬ
05204/難易度:☆☆☆
よし/ある/しもづかひ/を/いだし/て
たち/とまり/きり/の/まがき/の/すぎ/うく/は/くさ/の/とざし/に/さはり/しも/せ/じ
と/いひ/かけ/て いり/ぬ
教養に富んだ下仕いを送り出して、
《立ち止まりながら 霧立つまがきが行き過ぎにくいということでしたら 草の戸が閉まっていようと障りになるかしら触りがあるのはそっちでしょう》
と、歌を読みかけて戻って行った。
よしある下仕ひを出だして
立ちとまり霧のまがきの過ぎうくは草のとざしにさはりしもせじ
と言ひかけて 入りぬ
大構造と係り受け
古語探訪
よしある 05204
かなりの教養。「下仕」とは、雑事をする下級の女房である。したがって「よしある下仕」という語は、不自然である。自然に読もうとすると、ある想像を働かせる必要がある。その主人がかつて一流ないし超一流でありながら、今は没落し、世話する女房が少なく、その中に教養のある人が混じっていたなどと。
立ちとまりの歌 05204
後撰集に「女のもとにまかりたりけるに、門をさして開けざりければ、まかり帰りて朝につかはしける 兼輔朝臣/秋の夜の草のとざしのわびしきは明くれどあけぬものにぞありける」の返歌として「言ふからにつらさぞまさる秋の夜の草のとざしにさはるべしやは」(そんな言い訳めいた歌からしてつらさがまさるわ、秋の夜の草の戸がどうして妨げになろうか、入る気があれば押し入ればよいのに)という歌を下に引く。入る気があるなら入って来ればよい、後ろめたいのはそっちでしょうということ。
草のとざし 05204
草の戸の家のとざしの意味で、謙譲表現であり、また引きちぎろうと思えばできる草でできたとざしの意味にもなる。
さはり 05204
障りだが、触りと読むこともできる。