乳母いであなうたて 若紫11章16
原文 読み 意味
乳母 いで あなうたてや ゆゆしうもはべるかな 聞こえさせ知らせたまふとも さらに何のしるしもはべらじものを とて 苦しげに思ひたれば さりとも かかる御ほどをいかがはあらむ なほ ただ世に知らぬ心ざしのほどを見果てたまへ とのたまふ
05191/難易度:☆☆☆
めのと いで あな/うたて/や ゆゆしう/も/はべる/かな きこエさせ/しら/せ/たまふ/とも さらに/なに/の/しるし/も/はべら/じ/ものを とて くるしげ/に/おもひ/たれ/ば さりとも かかる/おほむ-ほど/を/いかが/は/あら/む なほ ただ/よ/に/しら/ぬ/こころざし/の/ほど/を/み/はて/たまへ と/のたまふ
乳母 いで あなうたてや ゆゆしうもはべるかな 聞こえさせ知らせたまふとも さらに何のしるしもはべらじものを とて 苦しげに思ひたれば さりとも かかる御ほどをいかがはあらむ なほ ただ世に知らぬ心ざしのほどを見果てたまへ とのたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
ゆゆしうもはべるかな 05191
この「も」のニュアンスを汲み取りたい。直ちにゆゆしき事態ではないが、ゆゆしき事態だと言ってもよいという感じ。「ゆゆし」とは、タブーを侵犯すること。紫のようにまだ性的対象にならない年齢の少女を手ごめにするタブーと、近親者を亡くしたばかりであるのに性的交渉を持とうとするタブーの二点において、「ゆゆし」である。ただ、事態はそこまで進んでいないために「も」がついているのだ。
聞こえさせ知らせたまふともさらに何のしるしもはべらじものを 05191
今から先のこと。これまで光がいろいろと手紙を書いて意中を紫に知らせようとしたことではない。いま、寝床のなかで、かき口説いても、紫には何の効果もないと言っているのだ。言葉を換えれば、何かしるしがあればそれは和合になるが、しるしもないのに強引な真似をすれば、それは恋愛とは違う強姦だ、とその言葉の裏から読み取るべきもの。この非難に対して光が答えたのが次の言葉。
さりとも 05191
そうではあるがの意味。したがって、乳母の非難を受けると取っては後に続かなくなる。自分が手荒な真似をするように見えるがと、自分の行動をうけて、乳母が想像するような行動と見えてもの意味。
世に知らぬ 05191
世」は男女。世間の男女が知り得ようもない愛情ということ。どういう愛情であるかは、次回以降のお楽しみ。