御文にもいとねむご 若紫08章13
原文 読み 意味
御文にも いとねむごろに書いたまひて 例の 中に かの御放ち書きなむ なほ見たまへまほしき とて
あさか山浅くも人を思はぬになど山の井のかけ離るらむ
05133/難易度:☆☆☆
おほむ-ふみ/に/も いと/ねむごろ/に/かい/たまひ/て れい/の なか/に かの/おほむ-はなちがき/なむ なほ/み/たまへ/まほしき とて
あさかやま/あさく/も/ひと/を/おもは/ぬ/に/など/やまのゐ/の/かけ/はなる/らむ
君はお手紙でも、とても心をこめてお気持ちをお書きになり、例の小さく引き結んだ結び文の中に、あの放ち書きを、拙くとも見させてもらいたいと、
《井戸に映る影が浅いというあさか山の名の通りには 浅くもあなたのことを思わないのに どうしてかけ離れて影も見えないのでしょう》
御文にも いとねむごろに書いたまひて 例の 中に かの御放ち書きなむ なほ見たまへまほしき とて
あさか山浅くも人を思はぬになど山の井のかけ離るらむ
大構造と係り受け
古語探訪
御文にも 05133
惟光からじかに光の気持ちを聞かせるだけでなく、手紙で気持ちを訴えているのである。
例の 05133
紫用のちいさくひき結んだ結び文。
かの御放ち書きなむなほ見たまへまほしき 05133
「かの」と「なほ」は光の言葉ではなく、話者が聞き手に説明している地の文であるから、カギに入れてはいけない。
放ち書き 05133
連綿体でなく、一字一字離して文字を書くこと。尼君の返事にあった「難波津をだにはかばかしうつづけはべざめれ」による。
あさか山 05133
「難波津」の歌とならび、最初に手習いする歌。この古歌は紫もなじんでいるであろうから、これを下に引いて歌を詠みかけたのである。
かけ離る 05133
遠く離れる意と、影が離れるをかける。「あさか山影さへ見ゆる山の井の浅き心をわが思はなくに(あさかやまの山にある井戸は浅いために覗き込むと影がうつるが、その井戸みたいに浅い気持ちであなたのことを思っているのではない)」(万葉集)を下にひく。本歌は「影さへ見ゆる」とあるのを、影も見えないくらい離れているとしたのである。