ゆくての御ことはな 若紫08章05
原文 読み 意味
ゆくての御ことは なほざりにも思ひたまへなされしを ふりはへさせたまへるに 聞こえさせむかたなくなむ まだ 難波津 をだに はかばかしう続けはべらざめれば かひなくなむ
05125/難易度:☆☆☆
ゆくて/の/おほむ-こと/は なほざり/に/も/おもひ/たまへ/なさ/れ/し/を ふりはへ/させ/たまへ/る/に きこエさせ/む/かた/なく/なむ まだ/なにはづ/を/だに はかばかしう/つづけ/はべら/ざ/めれ/ば かひなく/なむ
「ゆきずりに仰せのあったお話は、ご冗談でもあろうと存知あげることにいたしましたが、わざわざこんなところへお手紙を言付けさせられながら、女君に聞き入れさせるとっかかりがないものでして。まだ、「難波津」をさえ満足に書きつづけられないようなので、言うかいがなくて。
ゆくての御ことは なほざりにも思ひたまへなされしを ふりはへさせたまへるに 聞こえさせむかたなくなむ まだ 難波津 をだに はかばかしう続けはべらざめれば かひなくなむ
大構造と係り受け
古語探訪
ゆくて 05125
ゆきがかり。
ふりはへ 05125
遠くまでわざわざ。
させたまへる 05125
「させ」は、手紙を使者に託したこと。
聞こえさせむかたなくなむ 05125
問題は「させ」がついていること。先の「聞こえ」にはない要素をどう説明するかである。光の寄越した使者を使って、光に返事を差し上げる意味も考えられる。あるいは、紫に返事をさせる意味も考えられる。しかし、次のフレーズ「かひなくなむ」と対をないしていると読むのが自然であろうから、やはりこれも、紫には言ってもかいがないとの意味と解すのがよいと思う。この「聞こえ」は、「言ふ」の謙譲語ではなく、「聞き入れる」という「聞く」の受身と考え、紫に納得させる意味と取った。
難波津 05125
手習いの最初に習う歌。それさえ満足に書けないのだから、返歌のしようがない。