御返し まことにや 若紫06章11
原文 読み 意味
御返し
まことにや花のあたりは立ち憂きと霞むる空の気色をも見む
と よしある手の いとあてなるを うち捨て書いたまへり
05097/難易度:☆☆☆
おほむ-かへし
まこと/に/や/はな/の/あたり/は/たち/うき/と/かすむる/そら/の/けしき/を/も/み/む
と よし/ある/て/の いと/あて/なる/を うち-すて/かい/たまへ/り
返歌は、
《本当かしら 花のあたりは去りがたいとかりそめにおっしゃったけれど 霞みがかかってわかりにくい空のようなあなたの表情をちゃんと見ておきましょう》
と古典を学んだ筆跡でとても気品があるのに、無造作に書いておられた。
御返し
まことにや花のあたりは立ち憂きと霞むる空の気色をも見む
と よしある手の いとあてなるを うち捨て書いたまへり
大構造と係り受け
古語探訪
霞むる 05097
燕が体をかすめるように飛んで行く、などと使う「かすめ」で、中心からずれての意味。本心のこもらない言葉をはくことと、本心がどこにあるかはっきりしない光の態度、霞む実景を意味する。光としては本心を述べているつもりだが、尼君は和歌のレトリックとして相手に本心はどこかわからないと嘯くのである。
よしある手のいとあてなるをうち捨て書いたまへり 05097
「を」は「書く」の対象を表す格助詞とされているが、それでは「あてなる」と「うち棄て」が矛盾する。「を」は接続助詞であろう。「よしある手」とは教養が感じられる筆跡。すなわち、臨書をしっかりして古典の名筆を自分のものにしている筆跡である。「の」は同格。「あて」は気品がある。「うち棄て」は無造作に、大雑把に。慎重でなくということ。