うち笑ひてうちつけ 若紫04章03
原文 読み 意味
うち笑ひて うちつけなる御夢語りにぞはべるなる 尋ねさせたまひても 御心劣りせさせたまひぬべし 故按察使大納言は 世になくて久しくなりはべりぬれば えしろしめさじかし その北の方なむ なにがしが妹にはべる かの按察使かくれて後 世を背きてはべるが このごろ わづらふことはべるにより かく京にもまかでねば 頼もし所に籠もりてものしはべるなり と聞こえたまふ
05055/難易度:☆☆☆
うち-わらひ/て うちつけ/なる/おほむ-ゆめ/がたり/に/ぞ/はべる/なる たづね/させ/たまひ/て/も み-こころおとり/せ/させ/たまひ/ぬ/べし こ-あぜちのだいなごん/は よ/に/なく/て/ひさしく/なり/はべり/ぬれ/ば え/しろしめさ/じ/かし その/きたのかた/なむ なにがし/が/いもうと/に/はべる かの/あぜち/かくれ/て/のち よ/を/そむき/て/はべる/が このごろ わづらふ/こと/はべる/に/より かく/きやう/に/も/まかで/ね/ば たのもしどころ/に/こもり/て/ものし/はべる/なり と/きこエ/たまふ
つい吹き出して、「突拍子もない御夢物語のように聞こえますなあ。お尋ねになっても、きっとご期待をお損ねになりましょう。亡き按察の大納言は、亡くなってから永の時が経ってしまいましたので、ご存知ないでしょうな。その北の方が、わたくしめの妹でございます。今申しました按察が亡くなったのち、世を背き出家いたしているのですが、近頃病気にかかっておりますため、わたくしもこのように京にも参られませんので、頼りどころとしてここへ籠っているのでございます」と申し上げになる。
うち笑ひて うちつけなる御夢語りにぞはべるなる 尋ねさせたまひても 御心劣りせさせたまひぬべし 故按察使大納言は 世になくて久しくなりはべりぬれば えしろしめさじかし その北の方なむ なにがしが妹にはべる かの按察使かくれて後 世を背きてはべるが このごろ わづらふことはべるにより かく京にもまかでねば 頼もし所に籠もりてものしはべるなり と聞こえたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
はべるなる 05055
「なる」は伝聞「なり」の連体形。無茶に聞こえる。
御心劣り 05055
期待外れ。
せさせたまひ 05055
「せ」は動詞。「させたまひ」は尊敬。
かく京にもまかでねば 05055
僧都自身のこと。
はべるなり 05055
「なり」は断定。身内のことなの、推量する必要はないので伝聞ではない。このように「ラ変動詞+なり」は伝聞であるか断定であるか迷うことがあるが、自分の動作では断定であり、人の動作では伝聞である可能性がある。前に伝達動詞や音に関する表現があれば伝聞と考えて間違いない。先の「はべるなる」はその前に「聞こえたまへば」と伝達表現があったり、相手の動作であるの伝聞と決定できるのである。