いぬる十余日のほど 若紫03章03

2021-04-28

原文 読み 意味

いぬる十余日のほどより 瘧病にわづらひはべるを 度重なりて堪へがたくはべれば 人の教へのまま にはかに尋ね入りはべりつれど かやうなる人の験あらはさぬ時 はしたなかるべきも ただなるよりは いとほしう思ひたまへつつみてなむ いたう忍びはべりつる 今 そなたにも とのたまへり

05047/難易度:☆☆☆

いぬる/じふよ/にち/の/ほど/より わらはやみ/に/わづらひ/はべる/を たび/かさなり/て/たへ/がたく/はべれ/ば ひと/の/をしへ/の/まま にはか/に/たづね/いり/はべり/つれ/ど かやう/なる/ひと/の/しるし/あらはさ/ぬ/とき はしたなかる/べき/も ただ/なる/より/は いとほしう/おもひ/たまへ/つつみ/て/なむ いたう/しのび/はべり/つる いま そなた/に/も と/のたまへ/り

「十日過ぎごろから、瘧病みに苦しんでおりましたが、発作が度重なり耐え難い思い出したので、人が教えるまま、にわかにこちらを尋ねてはまいりましたが、あのように名高い方が霊験をしめされない場合、いたたまれなく思われましょう、そのことに対しても、評判を得る前よりは尚さら申し訳なく存じはばかれまして、ひどく内密にいたしたのです。いまそちらへもご挨拶を」とおっしゃられる。

いぬる十余日のほどより 瘧病にわづらひはべるを 度重なりて堪へがたくはべれば 人の教へのまま にはかに尋ね入りはべりつれど かやうなる人の験あらはさぬ時 はしたなかるべきも ただなるよりは いとほしう思ひたまへつつみてなむ いたう忍びはべりつる 今 そなたにも とのたまへり

大構造と係り受け

古語探訪

かやうなる人 05047

文意がとりにくいが、文章構成上「ただなるより」と比較されている。

ただなるより 05047

源氏物語の中で七度出てくるが、いずれも同一人物に対して、あることが起こる前と後の比較である(というか、他人と比較していると断定できる例はない)。何もなく普通にいた時よりもの意味。従ってここで考えられる意味は、聖の位を得るまえとあと、ないしは、あの人にまじなってもらえばすぐに霊験があらわれるとの評判を得る前と後という対比になる。そこらの坊主との比較ではない。この読みでは『注釈』が正しい。

いとほしう 05047

自分がかかわったことに対して申し訳なく思う気持ち。第三者の気持ちをあらわす「お気の毒と訳すのは間違いである。「いまそなたにも」のあとには挨拶に参ろうと思っていたところです、などの意味が省略されている。 高名なだけに評判を逸することがあれば申し訳ないので、内密に来ましたとの光の申し開きは感嘆させられる。この気遣いが、恋愛においても、政治の中でも必要な帝王学のひとつなのだろう。読んでてすこし歯が浮く感じはするが、頭がさがる。

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