宮もなほいと心憂き 若紫09章10
原文 読み 意味
宮も なほいと心憂き身なりけりと 思し嘆くに 悩ましさもまさりたまひて とく参りたまふべき御使 しきれど 思しも立たず まことに 御心地 例のやうにもおはしまさぬは いかなるにかと 人知れず思すこともありければ 心憂く いかならむ とのみ思し乱る
05145/難易度:☆☆☆
みや/も なほ/いと/こころうき/み/なり/けり/と おぼし/なげく/に なやましさ/も/まさり/たまひ/て とく/まゐり/たまふ/べき/おほむ-つかひ しきれ/ど おぼし/も/たた/ず まこと/に みここち れい/の/やう/に/も/おはしまさ/ぬ/は いか/なる/に/か/と ひとしれず/おぼす/こと/も/あり/けれ/ば こころうく いか/なら/む と/のみ/おぼし/みだる
宮も、やはりどうにも情けないこの身であることだと思い嘆きになるにつけ、ご気分もさらにひどくなられて、はやく参内なされよとの帝からのお使いがしきりに来るけれど、参内の決心はおつきにならない。まったくもって、お加減が、いつものような感じでもないのは、どうしたわけなのかと、人知れず思い当たることもあるので、情けなく、どうなることかとそればかりご心配になる。
宮も なほいと心憂き身なりけりと 思し嘆くに 悩ましさもまさりたまひて とく参りたまふべき御使 しきれど 思しも立たず まことに 御心地 例のやうにもおはしまさぬは いかなるにかと 人知れず思すこともありければ 心憂く いかならむ とのみ思し乱る
大構造と係り受け
古語探訪
なほ 05145
やはり。
心憂き 05145
自分が情けなく思われるとの意味で、具体的には、光を拒もうと思えば拒めたはずなのにという自分に対する責め。従って、この「なほ」は前回の逢瀬でもう二度と逢うまいと思い決めていたのにもかかわらず、また逢瀬を重ねたことへの後悔を表す。
悩ましさ 05145
もともと病気を原因に宮中から里に下がってきている。わたしの説では、帝の子を身籠ったとの理由による。帰参せよとの使いがあることからすると、妊娠は誤認であったとの沙汰をすでに帝へ届けたことになる。あるいは、妊娠でないなら早く帰参せよとの使い。
人知れず思すこと 05145
光との交渉による妊娠の心配。