惟光も同じことを聞 若紫08章15
原文 読み 意味
惟光も同じことを聞こゆ このわづらひたまふことよろしくは このごろ過ぐして 京の殿に渡りたまひてなむ 聞こえさすべき とあるを 心もとなう思す
05135/難易度:☆☆☆
これみつ/も/おなじ/こと/を/きこゆ この/わづらひ/たまふ/こと/よろしく/は このごろ/すぐし/て きやう/の/との/に/わたり/たまひ/て/なむ きこエさす/べき と/ある/を こころもとなう/おぼす
惟光も返事と同種の話を申し上げる。「このご病気でいらっしゃるのが、できましたら、しばらくここで養生し、京の屋敷にお戻りになってから、女君の耳にお入れするのがよろしいかと」との返事をもどかしくお思いになる。
惟光も同じことを聞こゆ このわづらひたまふことよろしくは このごろ過ぐして 京の殿に渡りたまひてなむ 聞こえさすべき とあるを 心もとなう思す
大構造と係り受け
古語探訪
惟光も同じことを聞こゆ 05135
尼君からの返書と同様に、惟光はじかに光へ尼君たちの様子を伝えたのである。ここで重要なのは、返歌や言葉ではだめだと言いつつも、尼君の病気がよくなり、京都にもどったあかつきには、紫に話を通そうと、少納言の乳母が言っている点である。相聞歌の返歌が断るのが常道であることは前回述べた。ダメよダメよと言いながら、相手の気持ちを強さを推し量っているのである。
聞こえさすべき 05135
例の如く諸注は光への返事をすると解釈するが、少納言が紫に、放ち書きをみたいという手紙を紫に見せることを始めとして、光の気持ちを伝えることである。光が少納言の乳母に目をつけたのは、姫君の恋の橋渡しをするのは、決まってその乳母であるからだ。保護者は表立っては否定するが、乳母は隠れて手引きするのである。惟光を使者として派遣した表向きは尼君に談判させることだが、裏の用として、隠れて手引きできないかとの密使として惟光を乳母に送ったのだと、この文でわかる。光としては今すぐことが進むと思ったのだが、京都に戻ってからと言われ、引き伸ばされたというか、体よく断られた感じがしたであろう、その気持ちが「心もとなう」である。京都に戻ってきたら何とかなるではない。