ただ絵に描きたるも 若紫07章07
- 1. 原文 読み 意味
- 1.1. 大構造と係り受け
- 1.1.1. 古語探訪
- 1.1.1.1. ものの姫君 05115
- 1.1.1.2. し据ゑられて 05115
- 1.1.1.3. うるはしう 05115
- 1.1.1.4. 思ふことも……いと苦しく 05115
- 1.1.1.5. うちかすめ 05115
- 1.1.1.6. 聞こえむ 05115
- 1.1.1.7. 山道の物語 05115
- 1.1.1.8. 言ふかひありてをかしういらへたまはばこそあはれならめ 05115
- 1.1.1.9. 世には 05115
- 1.1.1.10. 思して 05115
- 1.1.1.11. 思はずに 05115
- 1.1.1.12. 世の常なる御気色 05115
- 1.1.1.13. 見ばや 05115
- 1.1.1.14. 堪へがたうわづらひはべりし 05115
- 1.1.1.15. だに 05115
- 1.1.1. 古語探訪
- 1.1. 大構造と係り受け
原文 読み 意味
ただ絵に描きたるものの姫君のやうに し据ゑられて うちみじろきたまふこともかたく うるはしうてものしたまへば 思ふこともうちかすめ 山道の物語をも聞こえむ 言ふかひありて をかしういらへたまはばこそ あはれならめ 世には心も解けず うとく恥づかしきものに思して 年のかさなるに添へて 御心の隔てもまさるを いと苦しく 思はずに 時々は 世の常なる御気色を見ばや 堪へがたうわづらひはべりしをも いかがとだに 問ひたまはぬこそ めづらしからぬことなれど なほうらめしう と聞こえたまふ
05115/難易度:☆☆☆
ただ/ゑ/に/かき/たる/もの/の/ひめぎみ/の/やう/に し/すゑ/られ/て うち-みじろき/たまふ/こと/も/かたく うるはしう/て/ものし/たまへ/ば おもふ/こと/も/うち-かすめ やまみち/の/ものがたり/を/も/きこエ/む いふ/かひ/あり/て をかしう/いらへ/たまは/ば/こそ あはれ/なら/め よに/は/こころ/も/とけ/ず うとく/はづかしき/もの/に/おぼし/て とし/の/かさなる/に/そへ/て みこころ/の/へだて/も/まさる/を いと/くるしく/おもはず/に ときどき/は よ/の/つね/なる/みけしき/を/み/ばや たへ/がたう/わづらひ/はべり/し/を/も いかが/と/だに とひ/たまは/ぬ/こそ めづらしから/ぬ/こと/なれ/ど なほ/うらめしう と/きこエ/たまふ
ただ、書物に出てくる絵に描かれたしっかりした姫君のように、大臣からその場に据えられて、みじろぎなさる様子もほとんどなく、お行儀よくきちんとなさっているので、考えている事柄でも軽く言いなし、山路の物語なども話そうとは思う、しかし、話しがいがあって興味をもってご返事ならるならば愛情もわこうが、夫婦間のことには心打ち解けることもなく、自分をよそよそしく気持ちの置ける、まさにそういう人だとお思いになって、年月が重なるごとに、ますますお心の隔たりもましてゆくのを、とてもつらくてつい、「時々は、夫婦ならふつうに見せるご様子を見たいものです。耐え切れずわずらっておりましたことをも、どうですかとさえお問いにならないのが、あなたにはめずらしいことではありませんが、やはり恨めしう」と申し上げになる。
ただ絵に描きたるものの姫君のやうに し据ゑられて うちみじろきたまふこともかたく うるはしうてものしたまへば 思ふこともうちかすめ 山道の物語をも聞こえむ 言ふかひありて をかしういらへたまはばこそ あはれならめ 世には心も解けず うとく恥づかしきものに思して 年のかさなるに添へて 御心の隔てもまさるを いと苦しく 思はずに 時々は 世の常なる御気色を見ばや 堪へがたうわづらひはべりしをも いかがとだに 問ひたまはぬこそ めづらしからぬことなれど なほうらめしう と聞こえたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
ものの姫君 05115
「もの」は「ものの本」の「もの」であろう。「もの」に書物の意味があるのではなく、「絵に描きたる」が、本の中の絵に描かれているの意味。当時は男性が読む書物は漢文であり、子女の読み物は絵本である。その絵本の中の絵。
し据ゑられて 05115
父である左大臣に無理に光のもとに行くよう説得されたことを受ける。
うるはしう 05115
きちんとした様子。
思ふことも……いと苦しく 05115
ここまでは光の心内語。
うちかすめ 05115
ちょっと言うの意味で、「聞こえむ」にかかる。
聞こえむ 05115
終止形で下にはかからない。ただ次の文との関係が逆接なので、しかし、などを補うことになる。
山道の物語 05115
北山の聖のもとに祈祷に行った話であろう。
言ふかひありてをかしういらへたまはばこそあはれならめ 05115
挿入。「こそ+已然形」で、後の文と逆接につながる。
世には 05115
「ず」と呼応して否定を強めるのではない。それは「世に……否定」。「世には」の「世」は男女のこと。
思して 05115
尊敬語だから主体は葵。葵が光を「うとく恥づかしきもの」と考えるのだ。この「もの」はそのものの意味。「うとく恥づかしき」存在そのもの。
思はずに 05115
「思わずなり(=こういう夫婦になるとは予想もしていなかった)」の連用終止ではない。本動詞であれば、「思さずに」になる。ここは副詞で、つい、思わずの意味で「聞こえたまふ」にかかる。
世の常なる御気色 05115
夫婦の間なら普通に見せる愛情や表情。
見ばや 05115
見たい。
堪へがたうわづらひはべりし 05115
瘧で苦しんでいたこと。
だに 05115
~すら。最低ラインでさえ。