いといたう衰へにけ 若紫07章02
原文 読み 意味
いといたう衰へにけり とて ゆゆしと思し召したり 聖の尊かりけることなど 問はせたまふ 詳しく奏したまへば 阿闍梨などにもなるべき者にこそあなれ 行ひの労は積もりて 朝廷にしろしめされざりけること と 尊がりのたまはせけり
05110/難易度:☆☆☆
いと/いたう/おとろへ/に/けり とて ゆゆし/と/おぼしめし/たり ひじり/の/たふとかり/ける/こと/など とは/せ/たまふ くはしく/そうし/たまへ/ば あざり/など/に/も/なる/べき/もの/に/こそ/あ/なれ おこなひ/の/らう/は/つもり/て おほやけ/に/しろしめさ/れ/ざり/ける/こと/と たふとがり/のたまはせ/けり
「ほんとにまあやつれたものだ」と、不吉な事態にでもとご心配あそばされる。聖の徳の高さを示したであろう事蹟などについて、お問いになる。詳しく奏上なさると、「阿闍梨などにもなってしかるべき人物だろうに、修行の功は積もりながら、これまで朝廷にしられなかったとは」と、尊くお感じになりながらそうおっしゃるのだった。
いといたう衰へにけり とて ゆゆしと思し召したり 聖の尊かりけることなど 問はせたまふ 詳しく奏したまへば 阿闍梨などにもなるべき者にこそあなれ 行ひの労は積もりて 朝廷にしろしめされざりけること と 尊がりのたまはせけり
大構造と係り受け
古語探訪
聖の尊かりけること 05110
こういう「こと」には注意したい。源氏には「~すること」という形式名詞の用法はないと考えるべきである。ここの尊かったこととは、尊い行いである。呪力であり、人となり、立ち居ふるまい、言動その他、すべてをふくめて考えてよい。それを詳しく伝えたのである。
尊かり 05110
「らうたがり」との本文がある。尊いは聖に対してであり、らうたがりは光に対する哀憫の情である。「詳しく奏したまへば」の帰結としては、聖を尊がるとしか私には考えられない。異文が存在する理由は、「聖の尊かりけること」と「尊がり」が同意表現であるため、繰り返しを避けようという気持ちが働いたからであろうと想像する。「日ごろの御物語」に対しては、「ゆゆし」という感想がある。光はここで、しばらく参内しなかった理由、自分の身体の不調、北山で聖に祈祷してもらったことなどとざっと話をしたであろう。その中で、帝は、特に聖の徳の高さをもっと具体的に聞きたく思ったのが、「聖の尊かりけること」である。「ける」は光からの伝聞の意味。それに対して、ああなるほど尊い方だと実感されているのが、「尊がり」である。「がり」は人と同じようにそう思うことを外に向けて見せること。光が尊いと思うように、実際には知らないが光を通して、さぞ尊いのであろうと思うのである。