げにうちつけなりと 若紫05章05
原文 読み 意味
げに うちつけなりとおぼめきたまはむも 道理なれど
初草の若葉の上を見つるより旅寝の袖も露ぞ乾かぬ
と聞こえたまひてむや とのたまふ
05068/難易度:☆☆☆
げに うちつけ/なり/と/おぼめき/たまは/む/も ことわり/なれ/ど
はつくさ/の/わかば/の/うへ/を/み/つる/より/たびね/の/そで/も/つゆ/ぞ/かはか/ぬ
と/きこエ/たまひ/て/む/や と/のたまふ
「なるほど、唐突すぎて、おとぼけになるのも、当然ですが、
《初草の若葉のような初々しいお方を見た後は 旅寝しているこの袖も恋しい涙で乾くひまがない》
と、どうぞ申し上げてくださいな」とおっしゃる。
げに うちつけなりとおぼめきたまはむも 道理なれど
初草の若葉の上を見つるより旅寝の袖も露ぞ乾かぬ
と聞こえたまひてむや とのたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
げにうちつけなりとおぼめきたまはむも道理なれど 05068
光としては、紫以外に相手のいようがないと思いこんでるのに、どちらへお連れしたらいいかわからないと言われ、自分を通さないのは、突然すぎるからだなと納得する場面。まじめにこの発言をしているのか、すこし冗談気味に言っているのかは判断しがたい。まじめに言っているとしたら、光は状況把握ができないほど、紫に熱を上げていることになる。その光とわけのわからない女房との間のギャップに、ドラマが生まれ、光はある種の滑稽を身にまとう。読みとしてはこの方が面白いと思うのだが、従来の超人的な光源氏観はすこし褪せる。「おぼめき」が、そらとぼける。知っていながらごまかそうとする。
初草の若葉 05068
光るが透き見をしていたおりに、女房と大人が交換した歌に出てきた言葉。
聞こえたまひてむや 05068
尼君でなく、あくまで紫。取次ぎの対象は尼君でも、恋の対象は紫であるから、この歌を贈りたい、聞かせたいのは紫にである。もっと言えば、できれば尼君に知らせず、ことをすませたいと思っているであろう。紫は光個人にとって大切な女性となるが、社会的位置付けとしては、あくまで正式な妻としては扱われないし、扱う意識も光には芽生えないのである。