尼君ひがこと聞きた 若紫05章10
原文 読み 意味
尼君 ひがこと聞きたまへるならむ いとむつかしき御けはひに 何ごとをかは答へきこえむ とのたまへば はしたなうもこそ思せ と人びと聞こゆ
05073/難易度:☆☆☆
あまぎみ ひがこと/きき/たまへ/る/なら/む いと/むつかしき/おほむ-けはひ/に なにごと/を/かは/いらへ/きこエ/む と/のたまへ/ば はしたなう/も/こそ/おぼせ と/ひとびと/きこゆ
尼君は、「どうやら間違った話をお聞きになっておれるのでしょう。何とも応対しづらい真剣なご様子に、どのようなご返事が申されよう」とおっしゃると、「でも、お出にならないと、いたたまれないお思いなさるといけませんから」と女房たちが申し上げる。
尼君 ひがこと聞きたまへるならむ いとむつかしき御けはひに 何ごとをかは答へきこえむ とのたまへば はしたなうもこそ思せ と人びと聞こゆ
大構造と係り受け
古語探訪
いとむつかしき御けはひ 05073
「いと恥づかしき御けはひ」とするテキストがあるが、採用しがたい。尼君が恥ずかしいのでは、のちに若い女房と代わるのが不自然になる。「むつかし」は、対応に困るような真剣な様子だということ。ごまかしが効かないのである。
はしたなうもこそ思せ 05073
「もこそ」は自分でなく、人に対して~だといけないからの意味で使う。ここは光に対して。「はしたなし」と光が思う理由は、光は「聞こえさすべきこと」と言って、尼君に応対に出て来てもらい、そのうえで尼君から紫に伝えて欲しいと態度を変えてきたのである。それなのに、尼君が応対しないのでは、いたたまれない気持ちになろうと女房たちが案じるのである。返事をしなければではなく、尼君が返事をしなければの意味。