君は心地もいと悩ま 若紫05章01
原文 読み 意味
君は 心地もいと悩ましきに 雨すこしうちそそき 山風ひややかに吹きたるに 滝のよどみもまさりて 音高う聞こゆ
05064/難易度:☆☆☆
きみ/は ここち/も/いと/なやましき/に あめ/すこし/うち-そそき やまかぜ/ひややか/に/ふき/たる/に たき/の/よどみ/も/まさり/て おと/たかう/きこゆ
君は気力までもとても衰弱しているのに、雨がすこし降り、山風がつめたく吹きつけているため、滝の水嵩が増え、その音が高く聞こえる。
君は 心地もいと悩ましきに 雨すこしうちそそき 山風ひややかに吹きたるに 滝のよどみもまさりて 音高う聞こゆ
大構造と係り受け
古語探訪
心地も 05064
「も」は肉体のみならず。
悩ましきに 05064
「に」は、順接とも逆接ともとれるが、病弱であることと、普段より滝の音が大きいことは逆接関係と見た方がよいだろう。とはいえ、本当は、心身ともに疲れている時こそ、精神は休まらず、外からの刺激を敏感に受けるものである。そういう繊細な感覚をも配慮するところがにくらしい。衰弱、研ぎ澄まされた神経、滝の音、読経の声、もののあわれ、奥の気配、かすかだが耳につく数珠の音、このように自然の音からはじめて、気になってならない紫の方へ意識を徐々に向けてゆくところが、この段の読みどころ。気になっているなら、最初から奥の音のことが書かれてもよさそうであるが、光は衰弱のため意識が混沌としているのだろう。「思しめぐらすこと多く」は、藤壺と紫を中心としたものであることは確かだが、葵のこと、病気のことなど焦点なく次々と頭をめぐっていったのだと思う。そうした意識がぼんやりする中で、滝の音が聞こえてくる、そこに意識をしだすことで、次第に焦点が奥へと向ってゆくのである。現代作家にはここを味わう力があるだろうか。
雨すこしうちそそき山風ひややかに吹きたるに滝のよどみもまさりて音高う聞こゆ 05064
風雨で水嵩が増し、滝の音が高く聞こえるという因果関係。