さらばその子なりけ 若紫04章06
原文 読み 意味
さらば その子なりけり と思しあはせつ 親王の御筋にて かの人にもかよひきこえたるにや と いとどあはれに見まほし 人のほどもあてにをかしう なかなかのさかしら心なく うち語らひて 心のままに教へ生ほし立てて見ばや と思す
05058/難易度:☆☆☆
さらば その/こ/なり/けり/と/おぼし/あはせ/つ みこ/の/おほむ-すぢ/にて かの/ひと/に/も/かよひ/きこエ/たる/に/や/と いとど/あはれ/に/み/まほし ひと/の/ほど/も/あて/に/をかしう なかなか/の/さかしらごころ/なく うち-かたらひ/て こころ/の/まま/に/をしへ/おほし/たて/て/み/ばや と/おぼす
ならば、その人の子供だったのだなと、思いあたられた。親王の血筋だから、あのお方(藤壺)にも似通い申されているのだろうかと、ますます恋しくて世話をしたくなられる。人柄も高貴で魅力を引くし、かえって女には不要である、分別くささがなく、むつみあい、思い通りに教え育て上げて妻にしたいとお思いになる。
さらば その子なりけり と思しあはせつ 親王の御筋にて かの人にもかよひきこえたるにや と いとどあはれに見まほし 人のほどもあてにをかしう なかなかのさかしら心なく うち語らひて 心のままに教へ生ほし立てて見ばや と思す
大構造と係り受け
古語探訪
さらば 05058
亡くなったというのだから。
その子なりけり 05058
「その」が亡くなった人の、「子なりり」は、子供であったのだなという発見。光は尼君の娘と当て推量していたが、孫であったと知ったのである。
かの人 05058
藤壺。兵部卿の宮は、藤壺の兄。したがって、藤壺には姪にあたる。
いとどあはれに 05058
ますます恋しく。
見まほし 05058
「見る」は、直接的には床入り、長期的には妻として面倒をみる、妻にする、こと。
人のほども 05058
「人のほど」は身分の意味にもなるが、すでに身分については親王の娘ということで述べられているので、ここはそれとは違って、人のほどもとあるので、人格の問題である。
なかなかのさかしら心なく 05058
「なかなかの」はかえってない方がよいと思われること。「さかしら心」は、賢明ぶる気持ち。この語は、源氏物語に他に一例あり、「さかしら心あり、何くれとむつかしき筋になりぬれば、わが心地もすこし違ふふしも出で来やと心おかれ、人も恨みがちに……(さかしら心があり、何かかにかややこしい関係になると、こちらにしても、相手が前と違うんじゃないかという気持ちが生じ距離がおかれるし、相手もこちらを恨みがちになり……)」とある。素直に相手のことが受け入れられなくなる、分別知とでもいうもの。
うち語らひ 05058
しんみりした関係になること。男女間では、妻になるまでは、手紙をやり取りだけで、直接話をするということはない。語り合うとは、男女が一対一で会う関係、すなわち、ねんごろになる意味をふくむ。「見ばや」は、妻にしたい。