女ただ一人はべりし 若紫04章05
原文 読み 意味
女ただ一人はべりし 亡せて この十余年にやなりはべりぬらむ 故大納言 内裏にたてまつらむなど かしこういつきはべりしを その本意のごとくもものしはべらで 過ぎはべりにしかば ただこの尼君一人もてあつかひはべりしほどに いかなる人のしわざにか 兵部卿宮なむ 忍びて語らひつきたまへりけるを 本の北の方 やむごとなくなどして 安からぬこと多くて 明け暮れ物を思ひてなむ 亡くなりはべりにし 物思ひに病づくものと 目に近く見たまへし など申したまふ
05057/難易度:☆☆☆
むすめ/ただ/ひとり/はべり/し うせ/て この/じふよ/ねん/に/や/なり/はべり/ぬ/らむ こ-だいなごん うち/に/たてまつら/む/など かしこう/いつき/はべり/し/を その/ほい/の/ごとく/も/ものし/はべら/で すぎ/はべり/に/しか/ば ただ/この/あまぎみ/ひとり/もて-あつかひ/はべり/し/ほど/に いかなる/ひと/の/しわざ/に/か ひやうぶきやうのみや/なむ しのび/て/かたらひ/つき/たまへ/り/ける/を もと/の/きたのかた やむごとなく/など/して やすから/ぬ/こと/おほく/て あけくれ/もの/を/おもひ/て/なむ なくなり/はべり/に/し ものおもひ/に/やまひ/づく/もの/と め/に/ちかく/み/たまへ/し など/まうし/たまふ
「娘がただ一人おりました。亡くなってからもう十何年になりましょうか。故大納言は、宮中にでも差し上げようと、畏れかしこむように大切に育てましたが、その念願どおりにもようしませんでこの世を去ってしまいましたので、ただこの尼君ひとてで世話をしておりますうちに、どういう者の仲立ちでか、兵部卿の宮がこっそりと言い寄り通じてしまわれたところ、もともとの正妻がこの上ない高貴なご身分であったりして、心安からぬ問題が多くあり、明け暮れひどく悩んだ果てに亡くなってしまいました。気苦労からでも病気になるものだと目の当たりにいたしました」などと申される。
女ただ一人はべりし 亡せて この十余年にやなりはべりぬらむ 故大納言 内裏にたてまつらむなど かしこういつきはべりしを その本意のごとくもものしはべらで 過ぎはべりにしかば ただこの尼君一人もてあつかひはべりしほどに いかなる人のしわざにか 兵部卿宮なむ 忍びて語らひつきたまへりけるを 本の北の方 やむごとなくなどして 安からぬこと多くて 明け暮れ物を思ひてなむ 亡くなりはべりにし 物思ひに病づくものと 目に近く見たまへし など申したまふ
大構造と係り受け
古語探訪
内裏にたてまつらむなど 05057
帝ないしそれに準じるお方にさしあげようとの意味。
かしこう 05057
神などに対して畏れかしこむ気持ち。相手がわが子であっても、帝へ差し上げる人として敬い畏れながら「過ぎ」は亡くなる。
いつき 05057
神などに仕える。
いかなる人 05057
おとこを手引きするのはふつう女房たち。
語らひつき 05057
身分の劣るものをうまくだましてものにすること。すけこますといったイメージ。
本の北の方 05057
兵部卿の正妻。
安からぬこと 05057
いじめや脅迫。
源氏物語は登場人物それどれに個性があるところに特徴があるが、あるパターンをふむこともある。列記すると、
一、父親が按察の大納言であること。
二、宮仕えに上げるつもりで、娘を大切に育てていること。
三、父親はすでに亡くなっていること。
四、正妻がひどく嫉妬が激しいこと。
などである。