あはれなる人を見つ 若紫02章20
原文 読み 意味
あはれなる人を見つるかな かかれば この好き者どもは かかる歩きをのみして よくさるまじき人をも見つくるなりけり たまさかに立ち出づるだに かく思ひのほかなることを見るよ と をかしう思す
05043/難易度:☆☆☆
あはれ/なる/ひと/を/み/つる/かな かかれ/ば この/すきもの-ども/は かかる/ありき/を/のみ/し/て よく/さるまじき/ひと/を/も/みつくる/なり/けり たまさか/に/たち/いづる/だに かく/おもひ/の/ほか/なる/こと/を/みる/よ/と をかしう/おぼす
「愛しい人を見たものだな。こういうことがあるから、この女好きどもは、こうした忍び歩きばかりして、うまい具合に場違いな美人まで見つけるんだな。たまに出かけただけでも、こんな思いがけない人に出会えるとは」ろ、興味をお持ちになる。
あはれなる人を見つるかな かかれば この好き者どもは かかる歩きをのみして よくさるまじき人をも見つくるなりけり たまさかに立ち出づるだに かく思ひのほかなることを見るよ と をかしう思す
大構造と係り受け
古語探訪
さるまじき 05043
直訳すれば、「そうあるべきでない人」の意味だが、それは具体的にどういうことを意味するかは、文脈をたどるしかない。文章構成から考え、「かかる歩きをのみしてよくさるまじき人をも見つくるなりけり」と「たまさかに立ち出づるだにかく思ひの外なることを見るよ」は同意表現であることから考え(前者はそれを一般的に述べ、後者は自分の個別の経験を述べた違いがある)、「さるまじき人」は「思ひの外なること」とパラレルだとわかる。そこから、「そうあるべきでない人」とは、そんな場所で出会うとは予想もしなかった美人で、本来そういう場所にいることがふさわしくない人の意味である。なぜふさわしくないかは、本来、もっと位が高く、都の中心で貴族的な暮らしをしているべきであるという意識があるからである。中流下流生まれの中に、たまたま美人を発見したということではない。権力闘争に敗れた貴族という限定があるのだ。そこに本来いるべきでないという平安人の意識は、たんに美人だからではなく、本来上流階級ではないかと思える女性だからである。「雨夜の品定め」に出た「中の君(中流階級)」を押し当てる論があるが、この違いは重要で、かつて上流階級であったという限定が必要である。零落貴族であるから、光の従者たちでも、近づくことができるのであり、もと貴族だから光の恋愛の対象になりうるのである。