尼君髪をかき撫でつ 若紫02章14
原文 読み 意味
尼君 髪をかき撫でつつ 梳ることをうるさがりたまへど をかしの御髪や いとはかなうものしたまふこそ あはれにうしろめたけれ かばかりになれば いとかからぬ人もあるものを 故姫君は 十ばかりにて殿に後れたまひしほど いみじうものは思ひ知りたまへりしぞかし ただ今 おのれ見捨てたてまつらば いかで世におはせむとすらむ とて いみじく泣くを見たまふも すずろに悲し
05037/難易度:☆☆☆
あまぎみ かみ/を/かき-なで/つつ けづる/こと/を/うるさがり/たまへ/ど をかし/の/みぐし/や いと/はかなう/ものし/たまふ/こそ あはれ/に/うしろめたけれ かばかり/に/なれ/ば いと/かから/ぬ/ひと/も/ある/ものを こ-ひめぎみ/は とを/ばかり/にて/との/に/おくれ/たまひ/し/ほど/いみじう/もの/は/おもひ/しり/たまへ/り/し/ぞ/かし ただ/いま おのれ/みすて/たてまつら/ば いかで/よ/に/おはせ/む/と/す/らむ とて いみじく/なく/を/み/たまふ/も すずろ/に/かなし
尼君は少女の髪をかき撫でながら、「櫛でとくのをいやがりになるけれど、うつくしい御髪だこと。なんとも頼りなくいらっしゃるのが、かわいそうで気がかりだけれど、このくらいのご年齢になれば、まったくこんな風でなくしっかりした人もいるのに。亡くなった姫君は、十歳くらいで父親に先立たれてしまわれた頃には、たいそう世の中のことは思い知っておられたことです。ただいま、わたしが先だってお見捨て申し上げたなら、どうやって生きて行こうとなさるのでしょう」と言って、ひどく泣くのを君はごらんになるにつけ、無性に悲しいお気持ちになられる。
尼君 髪をかき撫でつつ 梳ることをうるさがりたまへど をかしの御髪や いとはかなうものしたまふこそ あはれにうしろめたけれ かばかりになれば いとかからぬ人もあるものを 故姫君は 十ばかりにて殿に後れたまひしほど いみじうものは思ひ知りたまへりしぞかし ただ今 おのれ見捨てたてまつらば いかで世におはせむとすらむ とて いみじく泣くを見たまふも すずろに悲し
大構造と係り受け
古語探訪
はかなう 05037
実質がないこと。しっかりしていないの意味である。
かからぬ 05037
「かくあらぬ」が縮まった形、こんな風でないという指示語。
故姫君 05037
少女の母。兵部卿宮の妻。
殿 05037
少女の祖父。姫君の父。尼君の夫。
見捨て 05037
少女を残してあの世に先立つこと。
すずろ 05037
明確な理由はないが、どうしようもなく何かを感じること。