かのとまりにし人び 若紫16章08
原文 読み 意味
かのとまりにし人びと 宮渡りたまひて 尋ねきこえたまひけるに 聞こえやる方なくてぞ わびあへりける しばし 人に知らせじ と君ものたまひ 少納言も思ふことなれば せちに口固めやりたり
05264/難易度:☆☆☆
かの/とまり/に/し/ひとびと みや/わたり/たまひ/て たづね/きこエ/たまひ/ける/に きこエ/やる/かた/なく/て/ぞ わび/あへ/り/ける しばし ひと/に/しらせ/じ と/きみ/も/のたまひ せうなごん/も/おもふ/こと/なれ/ば せちに/くち/かため/やり/たり
あの故按察大納言邸にとどまった人々は、父宮がお越しになって女君のことをお尋ね申されたところ、ご返答申し上げようがなくて困り果てたことであった。「当分、人に知らせるつもりはない」と君がおっしゃって、少納言にしても同じ思いでいる件なので、重々口固めするよう伝えおいてあり、
かのとまりにし人びと 宮渡りたまひて 尋ねきこえたまひけるに 聞こえやる方なくてぞ わびあへりける しばし 人に知らせじ と君ものたまひ 少納言も思ふことなれば せちに口固めやりたり
大構造と係り受け
古語探訪
せちに口固めやりたり 05264
「切に」は「やりたり」にかかる。「口かため」は「口かためとの伝言を」くらいの意味。「口かため」の実際の内容が、「行く方も知らず、少納言が率て隠しきこえたる」である。したがって、「口かためやりたり」の「たり」は終止とせず、連用中止法で下につづいてゆくと考える。そこで終止にすると、「口かためやりたり」(口かためをした)と「聞こえさする」(申し上げる)が伝言動詞(英語のsayに当たる動詞)が重複することになる。中止法と考えれば、口かためをして……と申し上げるとひとまとまりの表現と考えることができる。