参りたれば召し寄せ 若紫14章02
原文 読み 意味
参りたれば 召し寄せてありさま問ひたまふ しかしかなど聞こゆれば 口惜しう思して かの宮に渡りなば わざと迎へ出でむも 好き好きしかるべし 幼き人を盗み出でたりと もどきおひなむ そのさきに しばし 人にも口固めて 渡してむ と思して 暁かしこにものせむ 車の装束さながら 随身一人二人仰せおきたれ とのたまふ うけたまはりて立ちぬ
05223/難易度:☆☆☆
まゐり/たれ/ば めし/よせ/て/ありさま/とひ/たまふ しかしか/など/きこゆれ/ば くちをしう/おぼし/て かの/みや/に/わたり/な/ば わざと/むかへ/いで/む/も すきずきしかる/べし をさなき/ひと/を/ぬすみ/いで/たり/と もどき/おひ/な/む その/さき/に しばし ひと/に/も/くち/かため/て わたし/て/む と/おぼし/て あかつき/かしこ/に/ものせ/む くるま/の/さうぞく/さながら ずいじん/ひとり/ふたり/おほせ/おき/たれ と/のたまふ うけたまはり/て/たち/ぬ
惟光が参ったので、召し寄せて先方の様子をお問いになる。明日父宮の迎えが来る旨を申し上げると、無念とお感じになり、あの兵部卿宮に渡ってしまったら、強引に迎えに行くのも好色な感じがするし、幼い人を盗み出したと、当たらぬ非難をきっと負うことだろう。宮が来る先に、しばらく女房たちの口固めをして、移してしまおうとお思いになって、「暁に、あちらに行こう。車の支度はそのままで、随人を一人二人命じて手配しておけ」とおっしゃる。惟光は拝受して出立した。
参りたれば 召し寄せてありさま問ひたまふ しかしかなど聞こゆれば 口惜しう思して かの宮に渡りなば わざと迎へ出でむも 好き好きしかるべし 幼き人を盗み出でたりと もどきおひなむ そのさきに しばし 人にも口固めて 渡してむ と思して 暁かしこにものせむ 車の装束さながら 随身一人二人仰せおきたれ とのたまふ うけたまはりて立ちぬ
大構造と係り受け
古語探訪
参りたれば 05223
惟光が、光のもとに。
しかしかなど 05223
具体的内容は、紫を迎えに明日父宮が来ること。
口惜し 05223
期待していたことがかなわくなった時の心情。
わざと 05223
強引に。
迎へ出でむ 05223
もし兵部卿宮に引き取られたのであれば、父親の社会的地位からして光は通い婚を考えるのが普通であり、「据え」が認められる対象ではなくなる。となると、「迎へ出でむ」は、養女か何かとして迎えることであり、即結婚ではないのであろう。
幼き人を盗み出でたりともどきおひなむ 05223
結婚という形であれば盗み出したという非難は当たらない。そういう形で迎えにゆく気が光にないことがここから読める。
もどき 05223
非難の意味と、非難に当たらない非難を受ける意味にもなる。光の頭には、盗み出したという非難は当たらないという意識があるのだ。紫を引き取ることが、結婚ではないものの、光の頭には結婚に類似した何らかの正当な理由がある風である。それは、性交渉はなかったものの、一夜を過ごしたという事実である。結婚であって結婚でない、実事があるようなないようなアンビバレンツ(分離)な意識は、当面、光も女房も惟光も持ち続けることになる。
車の装束 05223
装束は飾りなどをふくめた準備。
さながら 05223
今ある状態のまま。いそぐので、改めて何かしない。
仰せおきたれ 05223
惟光が随人を手配を命じよということ。