何かさしも思す今は 若紫13章07
原文 読み 意味
何か さしも思す 今は世に亡き人の御ことはかひなし おのれあれば など語らひきこえたまひて 暮るれば帰らせたまふを いと心細しと思いて泣いたまへば 宮うち泣きたまひて いとかう思ひな入りたまひそ 今日明日 渡したてまつらむ など 返す返すこしらへおきて 出でたまひぬ
05214/難易度:☆☆☆
なに/か さしも/おぼす いま/は/よ/に/なき/ひと/の/おほむ-こと/は/かひなし おのれ/あれ/ば など/かたらひ/きこエ/たまひ/て くるれ/ば/かへら/せ/たまふ/を いと/こころぼそし/と/おぼい/て/ない/たまへ/ば みや/うち-なき/たまひ/て いと/かう/おもひ/な/いり/たまひ/そ けふあす わたし/たてまつら/む など かへす/がへす/こしらへ/おき/て いで/たまひ/ぬ
「どうして、そんなにもお考えになるのか。今になっては世に亡い人の御ことはどうしたって仕方がない。わたしがあるのだから」などと気持ちをこめて説き聞かせ申し上げになって、日が暮れたのでお帰りになるのを、姫君はとても心細いとお思いになってお泣きになると、父宮もついお泣きになって、「あまりそう思いつめてはなりませんよ。今日が明日にでもお移し申すつまりです」などと、繰り返し繰り返し、なだめすかしておいてからお立ちになった。
何か さしも思す 今は世に亡き人の御ことはかひなし おのれあれば など語らひきこえたまひて 暮るれば帰らせたまふを いと心細しと思いて泣いたまへば 宮うち泣きたまひて いとかう思ひな入りたまひそ 今日明日 渡したてまつらむ など 返す返すこしらへおきて 出でたまひぬ
大構造と係り受け
古語探訪
さしも 05214
「夜昼恋ひきこえたまふにはかなきものも聞こしめさず」というほど。
思ひな入りたまひそ 05214
「な……そ」は軽い禁止を示すが、「思ひ入る」のような複合語に対しては、このように途中に挿入されることが多い。
今日明日渡したてまつらむ 05214
事実でなく言葉の上で安心させるために、早めに言ったのである。それが「こしらへおきて」である。すなわち、事実でなくてもこしらえて、慰めの言葉を言うこと。