夜一夜風吹き荒るる 若紫12章05
原文 読み 意味
夜一夜 風吹き荒るるに げに かう おはせざらましかば いかに心細からまし 同じくは よろしきほどにおはしまさましかば とささめきあへり
05196/難易度:☆☆☆
よ/ひとよ かぜ/ふき/あるる/に げに かう おはせ/ざら/ましか/ば いかに/こころぼそから/まし おなじく/は よろしき/ほど/に/おはしまさ/ましか/ば と/ささめき/あへ/り
一夜じゅう風が吹き荒れるなか、「まったく、こうして君がいらっしゃらねば、どんなに心細いことか」「どうせなら、君にふさわしい年頃でいらっしゃたら」と女房たちはささやきあった。
夜一夜 風吹き荒るるに げに かう おはせざらましかば いかに心細からまし 同じくは よろしきほどにおはしまさましかば とささめきあへり
大構造と係り受け
古語探訪
風吹き荒るるに 05196
「に」は、訳文では時を表す感じにしたが、自然と人と、外と内を対照的に描いている点で、逆接的な感じをうける。ただし、こういう微妙な助詞は、こうと決めつけない方がよかろう。
ましかば……まし 05196
反実仮想で、実際に光はこうしてここにいるのだが、もしいなければと、事実に反する仮定を行うことで、今の幸せを感じている。
同じくは 05196
光がどうせここにいるならということ。
よろしきほど 05196
紫が光の結婚相手としてふさわしい年齢であることをいう。女房としては、紫を光に縁づかせることで、主人ともども将来の安定を願っているのだ。それとは対照的に、乳母は、光がいつ男性の本性を出して紫に襲いかかるか気が気でなく、すぐそばで見張っているのである。先に、自然と人との対照と述べたが、じつは、人の中に嵐のように不安定な要素があることをも示しているのだ。それは、男性と初めて向き合う紫の不安であり、逆にここで光と性交渉ができなかったために将来がなお不安をかかえたまま紫および女房たちであり、欲望を中絶された光の内心である。そうした象徴的意味合いが、嵐にはこめられていよう。