少納言ゆゑなからず 若紫11章05

2021-05-09

原文 読み 意味

少納言 ゆゑなからず御返りなど聞こえたり

05180/難易度:☆☆☆

せうなごん ゆゑ/なから/ず/おほむ-かへり/など/きこエ/たり

少納言は、自分では女君の将来をどうにも決めかねるとご返事なを申し上げた。

少納言 ゆゑなからず御返りなど聞こえたり

大構造と係り受け

古語探訪

ゆゑなからず 05180

光のとぶらいの目的は、紫を慰め、その将来について、まわりの女房や僧都と相談することである。僧都は僧籍にあるため、直接交渉する立場にないことは、紫の後見をしたいと最初に願い出たときに「そもそも女は人にもてなされて大人にもなりたまふものなれば、くはしくはえとり申さず」と断りを入れていることから想像される。となれば、女房たちの代表である少納言ということになる。ところで、「ゆゑなし」の「ゆゑ」とは根源的根拠を示す語で、それがないのである。紫の将来を相談しに行きながら、それをする権限が自分にはないというのだ。これは、尼君からそれを託されなかったからであろうと思う。「かしこまりはこの世ならでも聞こえさせむ」とあり、見舞いの礼も言えないような状態であったから、死ぬ間際に紫の将来について尼君と話し合う機会がなかったのであろう。尼君からこうしろと言われていたら、それに従うことができるが、それがないから自分には紫の将来を決める権利はないというのが「ゆゑなからず」である。常識的に考えるならば、父の兵部卿宮に託すことになろうし、尼君の考えもそうであった可能性が高いだろう、他に身内がないのだから。しかし、「ゆゑなからず」というあいまいさが、紫に待っている通常の運命をたどることをはばみ、光の略奪へと話を展開させてゆくのである。この一語は、物語の展開上、とても重い言葉なのだ。

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