手をとらへたまへれ 若紫11章15

2021-05-09

原文 読み 意味

手をとらへたまへれば うたて例ならぬ人の かく近づきたまへるは 恐ろしうて 寝なむ と言ふものを とて 強ひて引き入りたまふにつきてすべり入りて 今は まろぞ思ふべき人 な疎みたまひそ とのたまふ

05190/難易度:☆☆☆

て/を/とらへ/たまへ/れ/ば うたて/れい/なら/ぬ/ひと/の かく/ちかづき/たまへ/る/は おそろしう/て ね/な/む と/いふ/ものを とて しひて/ひき-いり/たまふ/に/つき/て/すべり/いり/て いま/は まろ/ぞ/おもふ/べき/ひと な/うとみ/たまひ/そ と/のたまふ

手を捕らえになると、どうなることか、馴れない人が、こんな馴れ馴れしくなさるのは、恐ろしくて、「もう寝る、と言ってるのに」と、無理に手を振り払い御簾の中に引っ込んでしまわれるのに付いて、君は中へすべて込んで、
「今は、わたしこそ心にかける人です、疎んじたりなさらないで」とおっしゃる。

手をとらへたまへれば うたて例ならぬ人の かく近づきたまへるは 恐ろしうて 寝なむ と言ふものを とて 強ひて引き入りたまふにつきてすべり入りて 今は まろぞ思ふべき人 な疎みたまひそ とのたまふ

大構造と係り受け

古語探訪

手をとらへ 05190

無理に手を取るのではなく、無理に手を押さえ込むというニュアンス。

うたて 05190

思いとは違う方向に事態が進行してゆくときの気持ち。先に眠いと言ったところ、光から膝の上で休むように言われて、そうしようとしたのに、髪を触られるのみか、手まで捕らえられ、という予期せぬ事態の進行に気を悪くしたのである。「例ならぬ人」は光。

近づきたまへる 05190

単に接近する意味ではない。その意味では「寄る」との表現が与えられている。ここは、馴れ馴れしい態度を取ること。具体的には体を触ることだ。

引き入り 05190

紫が少納言のいる御簾の中に入って行ったこと。前回の話になるが、ここからも紫は御簾の向こうではなく、光の側にいたことがわかる。

つきてすべり入りて 05190

光も紫に付き従って御簾の中へ入ったのである。

まろぞ思ふべき人 05190

わたしが紫を世話する人だと解釈されているが、「思ふ」に世話するの意味は認めにくいし、なぜ「べき」が入るかも説明がつかない。わたしこそ、あなたが心に思うべき人だ、だから邪険になさらないでという意味。「君は上を恋ひきこえたまひて」という地の文が響いている。光自身はもちろん、話者の語るこの地の文は知らないが、話者は聞き手に語ってきた過去に支配されながら、物語をつむいでゆくところが古典にはある。ここが、近代の作品と古典の作品の違うところである。登場人物は話者から独立して存在していないのである。このように地の文が、登場人物の言動に影響する場合は多々あることなので、記憶しておくとよい。ただ、ここはその典型的な例ではないことを断っておく。

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