いでやよろづ思し知 若紫10章13
目次
原文 読み 意味
いでや よろづ思し知らぬさまに 大殿籠もり入りて など聞こゆる折しも あなたより来る音して 上こそ この寺にありし源氏の君こそおはしたなれ など見たまはぬ とのたまふを 人びと いとかたはらいたしと思ひて あなかま と聞こゆ
05169/難易度:☆☆☆
いでや よろづ/おぼし/しら/ぬ/さま/に おほとのごもり/いり/て など/きこゆる/をり/しも あなた/より/くる/おと/し/て うへ/こそ この/てら/に/ありし/げんじのきみ/こそ/おはし/た/なれ など/み/たまは/ぬ と/のたまふ/を ひとびと いと/かたはらいたし/と/おもひ/て あなかま と/きこゆ
「どうして、まったく何も知らない様子で、お休みになっておられ」などと申し上げている折りも折り、向こうからやって来る足音がして、「上さま、この、寺で見た源氏の君がいらしゃってるとか、どうしてごらんにならないの」と姫君がおっしゃるのを、女房たちはとても居づらく思って、お静かにと申し上げる。
いでや よろづ思し知らぬさまに 大殿籠もり入りて など聞こゆる折しも あなたより来る音して 上こそ この寺にありし源氏の君こそおはしたなれ など見たまはぬ とのたまふを 人びと いとかたはらいたしと思ひて あなかま と聞こゆ
大構造と係り受け
古語探訪
いかで 05169
なんとかして。
上こそ 05169
「上」は尼君を指す。「こそ」は呼びかけ。
この寺にありし源氏の君こそ 05169
「この寺」でなく、「この君」である。「この」は紫が人形にして遊んだように、心理的に光を身近なものと見ていることが、表現になって現れたのである。「寺にありし」も敬語がついていないのは、この部分が独り言のように口をついてしまったのであろう。内的表現と見ておく。
あなかま 05169
人を制する言葉。