乱り心地はいつとも 若紫10章10
原文 読み 意味
乱り心地は いつともなくのみはべるが 限りのさまになりはべりて いとかたじけなく 立ち寄らせたまへるに みづから聞こえさせぬこと のたまはすることの筋 たまさかにも思し召し変はらぬやうはべらば かくわりなき齢過ぎはべりて かならず数まへさせたまへ いみじう心細げに見たまへ置くなむ 願ひはべる道のほだしに思ひたまへられぬべき など聞こえたまへり
05166/難易度:☆☆☆
みだりごこち/は いつ/と/も/なく/のみ/はべる/が かぎり/の/さま/に/なり/はべり/て いと/かたじけなく たちよら/せ/たまへ/る/に みづから/きこエ/させ/ぬ/こと のたまはする/こと/の/すぢ たまさか/に/も/おぼしめし/かはら/ぬ/やう/はべら/ば かく/わりなき/よはひ/すぎ/はべり/て かならず/かずまへ/させ/たまへ いみじう/こころぼそげ/に/み/たまへ/おく/なむ ねがひ/はべる/みち/の/ほだし/に/おもひ/たまへ/られ/ぬ/べき など/きこエ/たまへ/り
「気分の悪いのは、いつということなく常態で、それが終わりも近いようになってしまい、なんとかたじけなくもお立ち寄りいただきながら、直に応対できませぬのが。仰せの件、万が一にも、お気持ちに変わりがないようでしたら、あのようなどうにもならない年齢を過ぎましてから、かならず一人前の女性としてお取り扱いください。ひどく不安そうに見えるままこの世に残すことは、願っております往生の妨げに思えましてなりません」などと申し上げになる。
乱り心地は いつともなくのみはべるが 限りのさまになりはべりて いとかたじけなく 立ち寄らせたまへるに みづから聞こえさせぬこと のたまはすることの筋 たまさかにも思し召し変はらぬやうはべらば かくわりなき齢過ぎはべりて かならず数まへさせたまへ いみじう心細げに見たまへ置くなむ 願ひはべる道のほだしに思ひたまへられぬべき など聞こえたまへり
大構造と係り受け
古語探訪
いつともなくのみはべるが 05166
「が」は主格で、「限りのさまになりはべり」にかかる。訳文は接続助詞風になったが、そういう用例は源氏物語の中にはない。このあたりの尼君の言葉は和文特有のうねうね続く表現でわかりにくいの整理する。気分の悪さはいつものこと。いつものことなら光が見舞いに来たのだから直接対応しないといけないのだが、その気分の悪さは死期が近いまでになっているため、せっかくのお越しでも直接挨拶ができない、という感じ。
たまさかにも 05166
ふつうなら心変わりするものだが、万一心変わりしないなら。
わりなき 05166
結婚相手としてどうにもならない年齢。
数まへさせたまへ 05166
一人前の女性として扱ってほしいということ。すなわち、一時の恋愛対象でなく、生涯の面倒を見てほしいということ。
願ひはべる道 05166
極楽往生に生まれ変わること。
ほだし 05166
妨げ。