登りたまひて誰とも 若紫01章04
原文 読み 意味
登りたまひて 誰とも知らせたまはず いといたうやつれたまへれど しるき御さまなれば あな かしこや 一日 召しはべりしにやおはしますらむ 今は この世のことを思ひたまへねば 験方の行ひも捨て忘れてはべるを いかで かうおはしましつらむと おどろき騒ぎ うち笑みつつ見たてまつる いと尊き大徳なりけり
05004/難易度:☆☆☆
のぼり/たまひ/て たれ/と/も/しらせ/たまは/ず いと/いたう/やつれ/たまへ/れ/ど しるき/おほむ-さま/なれ/ば あな かしこ/や ひとひ めし/はべり/し/に/や/おはします/らむ いま/は このよ/の/こと/を/おもひ/たまへ/ね/ば げんがた/の/おこなひ/も/すて/わすれ/て/はべる/を いかで かう/おはしまし/つ/らむ と おどろき/さわぎ うち-ゑみ/つつ/み/たてまつる いと/たふとき/だいとこ/なり/けり
峰の高いところにある深い岩屋の中に、聖はこもって座していた。そこまでお登りになって、自分が誰ともお知らせず、まったくもってひどく目立たぬ格好をなさっておられたが、他とまぎれようのない御風貌なので、「これはまあもったいない。先日、お召しいただいたお方でしょうか。今は、この世の事柄に関心を持ちませず、加持祈祷なども捨ててかえりみませんものを、どうしてこのようにお越しあそばれたのでしょうか」と、驚き急ぎ出迎えながら、ついにっこり微笑みお顔を拝する。とても尊い高僧であった。
登りたまひて 誰とも知らせたまはず いといたうやつれたまへれど しるき御さまなれば あな かしこや 一日 召しはべりしにやおはしますらむ 今は この世のことを思ひたまへねば 験方の行ひも捨て忘れてはべるを いかで かうおはしましつらむと おどろき騒ぎ うち笑みつつ見たてまつる いと尊き大徳なりけり
大構造と係り受け
古語探訪
やつれ 05004
目立たぬ地味な格好をしていること。
しるき御さま 05004
見間違えることのない様子。
験方の行ひ 05004
病魔退散の加持祈祷。
捨て忘れて 05004
諸注は「捨てて忘れる」と訳すが、そんな日本語はない。「捨てる」は加持祈祷をしないこと。「忘れる」はそのことについて考えないこと。加持祈祷のやり方を忘れるわけでは、もちろんない。
おどろき騒ぎ 05004
諸注は「驚き騒ぎ」と訳すが、驚き騒ぐような高僧がいるだろうか。ここは高貴な身分である光が出向かれたことに対して、急いで出迎えている様子。
いと尊き大徳なりけり 05004
とうとつな感じを受けるが、感想を先ず言って、その後に、その感想を抱くに至った具体的理由をのべるという、古文にありがちな順序。