かの片つ方は蔵人少 夕顔13章05
原文 読み 意味
かの片つ方は 蔵人少将をなむ通はす と聞きたまふ あやしや いかに思ふらむ と 少将の心のうちもいとほしく また かの人の気色もゆかしければ 小君して 死に返り思ふ心は 知りたまへりや と言ひ遣はす
ほのかにも軒端の荻を結ばずは露のかことを何にかけまし
高やかなる荻に付けて 忍びて とのたまにつれど 取り過ちて 少将も見つけて 我なりけりと思ひあはせば さりとも 罪ゆるしてむ と思ふ御心おごりぞ あいなかりける
04163/難易度:☆☆☆
かの/かたつかた/は くらうど-の-せうしやう/を/なむ/かよはす と/きき/たまふ あやし/や いかに/おもふ/らむ/と せうしやう/の/こころ/の/うち/も/いとほしく また かの/ひと/の/けしき/も/ゆかしけれ/ば こぎみ/して しにかへり/おもふ/こころ/は しり/たまへ/り/や と/いひ/かはす
ほのか/に/も/のきば/の/をぎ/を/むすば/ず/は/つゆ/の/かこと/を/なに/に/かけ/まし
たかやか/なる/をぎ/に/つけ/て しのび/て/と/のたまへ/れ/ど とり-あやまち/て せうしやう/も/みつけ/て われ/なり/けり/と/おもひあはせ/ば さりとも つみ/ゆるし/て/む と/おもふ みこころおごり/ぞ あいなかり/ける
あのもう一方は蔵人の少将を夫として通わせているとお聞きになる。ああ気になる、男性経験のある女を妻にした気持ちは、どんなものだろうと、少将に対してもその気持ちを考えると申し訳なく思う一方で、また、あの人の様子も知りたくて、小君を使者に、「死ぬほど思う気持ちは、知っておいででしょうかと、言い伝える。
《十分ではないものの あなたとふたり軒端の荻を 結ぶ仲となっておらねば わずかな恨み言をのべるさえ 何の口実をもなかったでしょう》
高く伸びた荻に歌をつけて、「こっそり」ととご命じになったけれど、誤まって、少将にも見つけられ、相手の男は私だったのだと謎が解けたとして、それでもきっと過去の過ちを許してくれるだろうと、思う御心の傲慢さはまったくどうしようもないものだった。
かの片つ方は 蔵人少将をなむ通はす と聞きたまふ あやしや いかに思ふらむ と 少将の心のうちもいとほしく また かの人の気色もゆかしければ 小君して 死に返り思ふ心は 知りたまへりや と言ひ遣はす
ほのかにも軒端の荻を結ばずは露のかことを何にかけまし
高やかなる荻に付けて 忍びて とのたまにつれど 取り過ちて 少将も見つけて 我なりけりと思ひあはせば さりとも 罪ゆるしてむ と思ふ御心おごりぞ あいなかりける
大構造と係り受け
古語探訪
片つ方 04163
もう一方。この「蔵人少将」はここだけに登場。
いかに思ふらむ 04163
女はすでに処女でないことを少将はどう思っているだろうかの意味。宮廷に仕える女房などは、男性と接する機会が多く、男女の関係が生じることもあるが、そうでない女性が初婚前に、男性経験をすることは少なかったことが、ここから知られる。
少将の心のうちも 04163
「も」は軒端荻の心だけでなく。
人の気色も 04163
「も」は空蝉だけでなく。
死に返り思ふ 04163
常套句で、死ぬほど思う。
軒端の荻を結ばず 04163
古代において草を結ぶのは、契りを結ぶことの隠喩であった。なお、この歌から、この女は軒端の荻と一般に呼ばれる。
高やかなる荻 04163
女の背が高いことへのからかい。
思ひあはせ 04163
私の前の男は誰だったのだろうという疑問が、光の君であったのだと氷解すること。
あいなかりける 04163
「あいなし」はそぐわない。「けり」は詠嘆。