十九にやなりたまひ 夕顔12章14
原文 読み 意味
十九にやなりたまひけむ 右近は 亡くなりにける御乳母の捨て置きてはべりければ 三位の君のらうたがりたまひて かの御あたり去らず 生ほしたてたまひしを思ひたまへ出づれば いかでか世にはべらむずらむ いとしも人にと 悔しくなむ ものはかなげにものしたまひし人の御心を 頼もしき人にて 年ごろならひはべりけること と聞こゆ
04154/難易度:☆☆☆
じふく/に/や/なり/たまひ/けむ うこん/は なくなり/に/ける/おほむ-めのと/の/すて/おき/て/はべり/けれ/ば さむゐ-の-きみ/の/らうたがり/たまひ/て かの/おほむ-あたり/さら/ず おほしたて/たまひ/し/を/おもひ/たまへ/いづれ/ば いあかでか/よ/に/はべら/むず/らむ いと/しも/ひと/に/と くやしく/なむ もの-はかなげ/に/ものし/たまひ/し/ひと/の/みこころ/を たのもしき/ひと/にて としごろ/ならひ/はべり/ける/こと と/きこゆ
十九におなりだったでしょうか。わたくし右近は、先に亡くなった女君の御乳母が母で、これに先立たましたので、三位の君がかわいがってくださって、女君のおそばにおいてお育てくださいましたのを思い出しますと、どうしてこの世にとどまっておられましょうか。いとしいからといって、とても近しくなりすぎたようだ、それが慣れことなって、会わずには恋しくてなぬと歌にあるように、親しくさせていただいたのが悔やまれるくらいで。なんとも頼りなさそうでいらっしゃったお方のお心を頼みの綱として、長年慣れ親しんでまいったことです」と申し上げる。
十九にやなりたまひけむ 右近は 亡くなりにける御乳母の捨て置きてはべりければ 三位の君のらうたがりたまひて かの御あたり去らず 生ほしたてたまひしを思ひたまへ出づれば いかでか世にはべらむずらむ いとしも人にと 悔しくなむ ものはかなげにものしたまひし人の御心を 頼もしき人にて 年ごろならひはべりけること と聞こゆ
大構造と係り受け
古語探訪
御乳母 04154
夕顔の乳母であり、右近の実母。
捨て置き 04154
先立たれる。
三位の君 04154
夕顔の父。
いとしも人に 04154
「思ふとていとしも人にむつれけむしかならひてぞ見ねば恋しき」(拾遺抄)を受ける。
ものはかなげに 04154
ひどく頼りなそう。