竹の中に家鳩といふ 夕顔12章13
原文 読み 意味
竹の中に家鳩といふ鳥の ふつつかに鳴くを聞きたまひて かのありし院にこの鳥の鳴きしを いと恐ろしと思ひたりしさまの 面影にらうたく思し出でらるれば 年はいくつにかものしたまひし あやしく世の人に似ず あえかに見えたまひしも かく長かるまじくてなりけり とのたまふ
04153/難易度:☆☆☆
たけ/の/なか/に/いへばと/と/いふ/とり/の ふつつか/に/なく/を/きき/たまひ/て かの/ありし/ゐん/に/この/とり/の/なき/し/を いと/おそろし/と/おもひ/たり/し/さま/の おもかげ/に/らうたく/おぼし/いで/らるれ/ば とし/は/いくつ/に/か/ものし/たまひ/し あやしく/よ/の/ひと/に/に/ず あエか/に/みエ/たまひ/し/も かく/ながかる/まじく/て/なり/けり と/のたまふ
君は竹の中で家鳩という鳥が野太い声で鳴くのをお聞きになって、あの一夜を明かした院で、このように鳥が野太く鳴いたのを、ひどく怖がっていた様子が幻のごとく、いとしく思い出されになって、「年はいくつでいらっしゃったの。不思議なくらい人と違って、線が細くお見えになったのも、このように長くはいられぬからだったのだな」とおっしゃる。
竹の中に家鳩といふ鳥の ふつつかに鳴くを聞きたまひて かのありし院にこの鳥の鳴きしを いと恐ろしと思ひたりしさまの 面影にらうたく思し出でらるれば 年はいくつにかものしたまひし あやしく世の人に似ず あえかに見えたまひしも かく長かるまじくてなりけり とのたまふ
大構造と係り受け
古語探訪
ふつつかに 04153
太さからくる格好のわるさ。ここでは太く聞きづらい声。
かのありし院 04153
夕顔と一夜を過ごした院。
この鳥の鳴きし 04153
「この鳥」すなわち、家鳩ととらえ、某院では梟が鳴いたのであって、家鳩が鳴いた記述はないのでおかしいと考えられている。「気色ある鳥のから声に鳴きたるも、梟はこれにやとおぼゆ(妖しげな鳥がしわがれ声で鳴きまでする。不吉と言われる梟とはこれかとお思いになる)」とかなり描きこんでいるのだから、これを単なる記憶違いですますわけにはいかない。「この」は「鳥」でなく「鳴きし」にかけ、このように、すなわち、ふつつかに鳴いた、との意味で、夜中に梟が鳴いたことを受けると解釈するのが自然であろう。
面影に 04153
幻となって。
あえか 04153
存在感の薄さ。