世の人に似ずものづ 夕顔12章07
原文 読み 意味
世の人に似ず ものづつみをしたまひて 人に物思ふ気色を見えむを 恥づかしきものにしたまひて つれなくのみもてなして 御覧ぜられたてまつりたまふめりしか と 語り出づるに さればよ と 思しあはせて いよいよあはれまさりぬ
04147/難易度:☆☆☆
よ/の/ひと/に/に/ず ものづつみ/を/し/たまひ/て/ひと/に/もの/おもふ/けしき/を/みエ/む/を はづかしき/もの/に/し/たまひ/て つれなく/のみ/もてなし/て ごらんぜ/られ/たてまつり/たまふ/めり/しか と かたり/いづる/に さればよ/と おぼし/あはせ/て いよいよ/あはれ/まさり/ぬ
世間にはほかにいないほどひどく内気でいらっしゃって、恋に悩んでいる様子を人に見られるのを、ひどく恥ずかしいことだとお考えになって、気持ちを表さぬような態度をおとりになって、お会いになられておいでであったようです」と右近が語りだすと、だからあの時にと、雨夜の品定めでの頭中将の話を思い合わせになり、ますます夕顔への恋しさがましていった。
世の人に似ず ものづつみをしたまひて 人に物思ふ気色を見えむを 恥づかしきものにしたまひて つれなくのみもてなして 御覧ぜられたてまつりたまふめりしか と 語り出づるに さればよ と 思しあはせて いよいよあはれまさりぬ
大構造と係り受け
古語探訪
人に物思ふ気色を見えむを恥づかしきものにしたまひてつれなくのみもてなして御覧ぜられたてまつりたまふめりしか 04147
「ご覧ぜられ」は「見られ」の尊敬表現であり、その主体は光である。「見あらはされ」に尊敬語がないことに注意したい。話が、頭中将の話題から、光に移っているのである。従って、ここの「人に」は光を指す。「もの思ふ気色」は、光に対して恋しくてもの思いばかりされるという気持ちを表情にあわらすこと。それが「ものづつみ」が激しくてできなかったのだという、つれない女に見えたであろうことの右近による弁明。「ご覧ぜられたてまつりたまふ」は、「ご覧ぜられ」という受身表現に対して、「たてまつり」と「たまふ」という敬語がついた形。「ご覧ぜられ」は夕顔が光から愛されること。主体は夕顔。「ご覧ず」は「見る」の敬語で、「見る」は肉体関係を結ぶ意味。「たまふ」は愛される主体である夕顔に対する右近からの敬意、「たてまつり」はその相手である光への敬意である。
さればよ 04147
「そういうことだから、ああいう態度をとったのか」という、うなずきの発語。
あはれ 04147
恋しい気持ち。