右近をいざ二条へと 夕顔10章16
原文 読み 意味
右近を いざ 二条へ とのたまへど 年ごろ 幼くはべりしより 片時たち離れたてまつらず 馴れきこえつる人に にはかに別れたてまつりて いづこにか帰りはべらむ いかになりたまひにきとか 人にも言ひはべらむ 悲しきことをばさるものにて 人に言ひ騒がれはべらむが いみじきこと と言ひて 泣き惑ひて 煙にたぐひて 慕ひ参りなむ と言ふ
04124/難易度:☆☆☆
うこん/を いざ にでう/へ と/のたまへ/ど としごろ をさなく/はべり/し/より かたとき/たち-はなれ/たてまつら/ず なれ/きこエ/つる/ひと/に にはか/に/わかれ/たてまつり/て いづこ/に/か/かへり/はべら/む いかに/なり/たまひ/に/き/と/か ひと/に/も/いひ/はべら/む かなしき/こと/を/ば/さる/もの/にて ひと/に/いひ/さわが/れ/はべら/む/が いみじき/こと と/いひ/て なき/まどひ/て けぶり/に/たぐひ/て したひ/まゐり/な/む と/いふ
右近に、さあ二条院へと、お誘いなさるが、「長年、幼うございました時分より、片時とそばをお離れいたさず、親しくさせていただいたお方に、急にお別れして、どこへ帰るところがございましょう。ご主人さまはどうなってしまわれたと人に言えばよいのでしょうか。死別の悲しみはもとよりですが、人にあれこれ言いたてられますことが、どうにも耐えられないことで」と言って泣き崩れ、「荼毘の煙とともにお側に参りとう」と言う。
右近を いざ 二条へ とのたまへど 年ごろ 幼くはべりしより 片時たち離れたてまつらず 馴れきこえつる人に にはかに別れたてまつりて いづこにか帰りはべらむ いかになりたまひにきとか 人にも言ひはべらむ 悲しきことをばさるものにて 人に言ひ騒がれはべらむが いみじきこと と言ひて 泣き惑ひて 煙にたぐひて 慕ひ参りなむ と言ふ
大構造と係り受け
古語探訪
いざ 04124
Let’S。二条院に誘う光の言葉に対する右近の返答は小説として面白いところ。表面、主人と一緒に煙になりたいと言っているが、これは侍女としての常套句であろう。五条の家には帰れないという裏には、二条院へ行くことをすでにOKしているのだろう。しかし、直接そうは言えないので、侍女の立場として同じ煙になりたいと言っているのだろうと思う。
年ごろ 04124
長年。
馴れきこえつる人 04124
親しくさせていただいた人とは主人である夕顔。
いかになりたまひにき 04124
主体は、主人である夕顔が、五条の家に帰ると、同僚からあれこれ質問攻めにあうのは必定だが、それに答えることができないと光に訴えているのだ。
悲しきことをばさるものにて 04124
「さるもの」は、悲しいのはやまやまだの意味。これはその後にもっと重要なことがつづく表現。すなわち、論理展開として、主人の死別の悲しみより、同僚から責められることがつらいと右近は考えているのである。だから、同じ煙になってしまおうと自暴自棄にいうが、本心というより、光が助け舟を出してくれることを念頭の上で言っているのだろうと思う。