白き袷薄色のなよよ 夕顔05章06
原文 読み 意味
白き袷 薄色のなよよかなるを重ねて はなやかならぬ姿 いとらうたげにあえかなる心地して そこと取り立ててすぐれたることもなけれど 細やかにたをたをとして ものうち言ひたるけはひ あな 心苦し と ただいとらうたく見ゆ 心ばみたる方をすこし添へたらば と見たまひながら なほうちとけて見まほしく思さるれば いざ ただこのわたり近き所に 心安くて明かさむ かくてのみは いと苦しかりけり とのたまへば いかで にはかならむ と いとおいらかに言ひてゐたり
04059/難易度:☆☆☆
しろき/あはせ うすいろ/の/なよよか/なる/を/かさね/て はなやか/なら/ぬ/すがた いと/らうたげ/に/あエか/なる/ここち/し/て そこ/と/とりたて/て/すぐれ/たる/こと/も/なけれ/ど ほそやか/に/たをたを/と/し/て もの/うち-いひ/たる/けはひ あな こころぐるし/と ただ/いと/らうたく/みゆ こころばみ/たる/かた/を/すこし/そへ/たら/ば と/み/たまひ/ながら なほ/うちとけ/て/み/まほしく/おぼさ/るれ/ば いざ ただ/この/わたり/ちかき/ところ/に こころやすく/て/あかさ/む かくて/のみ/は いと/くるしかり/けり と/のたまへ/ば いかで にはか/なら/む と いと/おイらか/に/いひ/て/ゐ/たり
白い袷に薄紫の着慣れた上着を重ねて、清楚にしている姿が、とても愛らしく触れればこぼれ落ちそうな感じがして、どこと取りたてて優れたところもないのだが、細やかになよなよとしながら、ぽつり、ぽつりとものを言う様子がああ痛々しいと思われるほど、ただひたすらいじらしく見える。心の内を露わにする面をすこし加えてはとご不満ながら、それでももっと心をうちとけた風にしてい逢いたいとお思いになられ、「さあ、ついこのあたりの近くで、気を楽にして夜を明かそう。こんなふうにばかりしていてはとても息が続かない」とおっしゃると、「どうしてそんな。急だわ」ととてもおっとりと言って座っている。
白き袷 薄色のなよよかなるを重ねて はなやかならぬ姿 いとらうたげにあえかなる心地して そこと取り立ててすぐれたることもなけれど 細やかにたをたをとして ものうち言ひたるけはひ あな 心苦し と ただいとらうたく見ゆ 心ばみたる方をすこし添へたらば と見たまひながら なほうちとけて見まほしく思さるれば いざ ただこのわたり近き所に 心安くて明かさむ かくてのみは いと苦しかりけり とのたまへば いかで にはかならむ と いとおいらかに言ひてゐたり
大構造と係り受け
古語探訪
薄色 04059
普通は薄紫色。
なよよかなる 04059
柔らかな意味というより、着なれて身に馴染んだの意味であろう。
あえかなる 04059
触れればはこぼれる感じ。白は清楚さを表し、このあたり、夕顔の花のイメージがこもる。
心ばみたる方 04059
気取りの意味でなく、夕顔が内面を示さないことに対する物足りなさである。 「ばむ」は、 そのような状態を帯びることであり、心ばむは内面を外に表現すること。
なほ 04059
現状では物足りないが、それでもなお。
うちとけて 04059
心を露わにして。
心安く 04059
安心して心を開いてということ。
かくてのみ 04059
この場所への不満でなく、現状への不満である。要するに夕顔の本心が知りたい。