八月十五夜隈なき月 夕顔05章01
原文 読み 意味
八月十五夜 隈なき月影 隙多かる板屋 残りなく漏り来て 見慣らひたまはぬ住まひのさまも珍しきに 暁近くなりにけるなるべし 隣の家々 あやしき賤の男の声々 目覚まして あはれ いと寒しや 今年こそ なりはひにも頼むところすくなく 田舎の通ひも思ひかけねば いと心細けれ 北殿こそ 聞きたまふや など 言ひ交はすも聞こゆ
04054/難易度:☆☆☆
はちぐわち/じふごや くまなき/つきかげ ひま/おほかる/いたや のこり/なく/もり/き/て みならひ/たまは/ぬ/すまひ/の/さま/も/めづらしき/に あかつき/ちかく/なり/に/ける/なる/べし となり/の/いへいへ あやしき/しづのを/の/こゑごゑ め/さまし/て あはれ いと/さむし/や ことし/こそ なりはひ/に/も/たのむ/ところ/すくなく ゐなか/の/かよひ/も/おもひかけ/ね/ば いと/こころぼそけれ きたどの/こそ きき/たまふ/や など いひかはす/も/きこゆ
八月の十五夜、残るくまなく照らす望月の光が、隙間の多い板屋の隅々にまで漏れ入り、見なれておいででない住まいの様子もめずらしいが、その上、暁近くになったのであろう、近隣の家々からは、下賎な身の男たちが目を覚まして、声々に「ああ、なんて寒いんだ」「今年はついに商売も見込めず、田舎への行商も当てにならなくて、実に心細いことだ。北隣さんお聞きかね」など、言い交わすのも聞こえる。
八月十五夜 隈なき月影 隙多かる板屋 残りなく漏り来て 見慣らひたまはぬ住まひのさまも珍しきに 暁近くなりにけるなるべし 隣の家々 あやしき賤の男の声々 目覚まして あはれ いと寒しや 今年こそ なりはひにも頼むところすくなく 田舎の通ひも思ひかけねば いと心細けれ 北殿こそ 聞きたまふや など 言ひ交はすも聞こゆ
大構造と係り受け
古語探訪
八月十五夜 04054
仲秋の名月の夜。『細流抄』には男女の交わりが不吉であるとの注がある。「八月」は「はちがつ」との読みもある。
住まひのさまも 04054
「も」は、「など言ひかはすも」の「も」と響き合う。光はこの時点では、朝の営みを煩わしいとは感じず、「めづらしき」と肯定判断を下している。