霧のいと深き朝いた 夕顔03章04
原文 読み 意味
霧のいと深き朝 いたくそそのかされたまひて ねぶたげなる気色に うち嘆きつつ出でたまふを 中将のおもと 御格子一間上げて 見たてまつり送りたまへ とおぼしく 御几帳引きやりたれば 御頭もたげて見出だしたまへり
04034/難易度:☆☆☆
きり/の/いと/ふかき/あした いたく/そそのかさ/れ/たまひ/て ねぶたげ/なる/けしき/に うち-なげき/つつ/いで/たまふ/を ちうじやう-の-おもと みかうし/ひとま/あげ/て み/たてまつり/おくり/たまへ と/おぼしく みきちやう/ひきやり/たれ/ば みぐし/もたげ/て/みいだし/たまへ/り
霧がたいそう深く立ちこめる後朝(キヌギヌ)に、君はひどく急き立てになられて、眠たそうな様子で別れを嘆きつつ出てゆかれるのを、中将のおもとが、御格子を一間ぶん上げて、お見送り申し上げなさりませとの心づかいであろう、御几帳をとりのけたので、御息所は御頭をもたげて外へ目をおやりになった。
霧のいと深き朝 いたくそそのかされたまひて ねぶたげなる気色に うち嘆きつつ出でたまふを 中将のおもと 御格子一間上げて 見たてまつり送りたまへ とおぼしく 御几帳引きやりたれば 御頭もたげて見出だしたまへり
大構造と係り受け
古語探訪
霧のいと深き朝 04034
六条御息所との後朝(キヌギヌ)の場面。「霧」は男女の別れの嘆きを象徴するとのこと(『注釈』)。
そそのかされ 04034
もう朝なので、お帰りなさいと御息所付きの女房にせきたてられた。
ねぶたげなる気色 04034
実際に眠いのではなく、立ち去りにくそうにするのが礼儀であるとのこと(『新全集』)。「気色」は、実際そうではないがそうした風であるというニュアンスがある。
見たてまつり送りたまへ 04034
「たてまつり」で見送る対象である光へ、「たまへ」で見送る主体である御息所へ敬意を示す。
御頭もたげて 04034
そうあるのは、昨夜の情交の激しさを示す。七歳上の御息所には、光の若さを受けとめる体力がないのであろう。それに比して、光は中将へもちょっかいを出そうとする。このあたりの対比の妙は、小説としての読みどころである。