娘をばさるべき人に 夕顔02章06
原文 読み 意味
娘をばさるべき人に預けて 北の方をば率て下りぬべし と 聞きたまふに ひとかたならず心あわたたしくて 今一度は えあるまじきことにや と 小君を語らひたまへど 人の心を合せたらむことにてだに 軽らかにえしも紛れたまふまじきを まして 似げなきことに思ひて 今さらに見苦しかるべし と思ひ離れたり
04028/難易度:☆☆☆
むすめ/を/ば/さるべき/ひと/に/あづけ/て きたのかた/を/ば/ゐ/て/くだり/ぬ/べし/と きき/たまふ/に ひとかたならず/こころ/あわたたしく/て いま/ひとたび/は/え/ある/まじき/こと/に/や/と こぎみ/を/かたらひ/たまへ/ど ひと/の/こころ/を/あはせ/たら/む/こと/にて/だに かろらか/に/え/しも/まぎれ/たまふ/まじき/を まして にげなき/こと/に/おもひ/て いまさら/に/みぐるしかる/べし と/おもひ/はなれ/たり
娘の軒端荻をしっかりした人に預けて、北の方である空蝉を任国へ連れて下ってゆくことになったようだと、お聞きになると、尋常でないあわてぶりで、今一度どうしても無理であろうかと小君に持ちかけてみられるが、相手の同意を得ている場合でも、容易に人目を隠せそうにないなのに、まして、空蝉はつりあわぬ恋愛だと思い、夫いる今の身ではどうしようもなく、見苦しいことになるのがおちだと、すでに気持ちは離れているのだから、話にならない。
娘をばさるべき人に預けて 北の方をば率て下りぬべし と 聞きたまふに ひとかたならず心あわたたしくて 今一度は えあるまじきことにや と 小君を語らひたまへど 人の心を合せたらむことにてだに 軽らかにえしも紛れたまふまじきを まして 似げなきことに思ひて 今さらに見苦しかるべし と思ひ離れたり
大構造と係り受け
古語探訪
さるべき人 04028
平たく言えばちゃんとした人。
預けて 04028
要するに縁付けること。
率て下りぬべし 04028
連れて下るつもりだと訳されているが、それでは、伊予介の口からじかに聞いている感じがする。「ぬべし」は、きっとそうするだろうと第三者から光の耳に入った。
えあるまじきこと 04028
決してあってはならないこと。密会をやばいことだという意識は光にもある。もう一度逢えないだろうかとの訳では、光のうしろ暗さが伝わらない。
人の心を合せたらむことにてだに 04028
相手も密会したいと思っている場合であってさえ。
似げなきことに思ひて 04028
最後の密会に対してではなく、光との恋愛そのものを不釣合いと考えている。
今さらに見苦しかるべし 04028
これも、最後の密会に対していまさら逢うのは見苦しいという意味ではない。空蝉が光に対していつも感じていること、娘時代の父親の庇護のもとで光に会いたかったのに、没落し身分の低い夫をもつ身で光と逢うのはの意味である。結局、諸注は「似げなきことに思ひて、いまさらに見苦しかるべしと思ひ離れたり」を、もう一度逢いたいとの光の気持ちを受けての反応(空蝉の心内語)と考えているが、そうではなく、光がもう一度逢いたいと小君に働きかけても、すでに空蝉の気持ちは離れているのだと、話者が説明している地の文である。
まして 04028
二人とも逢いたがっている場合でも難しいのに、まして気持ちの離れている空蝉では難しいとの意味。