ものまめやかなる大 夕顔02章05
原文 読み 意味
ものまめやかなる大人を かく思ふも げにをこがましく うしろめたきわざなりや げに これぞ なのめならぬ片はなべかりける と 馬頭の諌め思し出でて いとほしきに つれなき心はねたけれど 人のためは あはれ と思しなさる
04027/難易度:☆☆☆
もの-まめやか/なる/おとな/を かく/おもふ/も げに/をこがましく うしろめたき/わざ/なり/や げに これ/ぞ なのめ/なら/ぬ/かた/は/な/べかり/ける/と むま-の-かみ/の/いさめ/おぼし/いで/て いとほしき/に つれなき/こころ/は/ねたけれ/ど ひと/の/ため/は あはれ と/おぼし/なさ/る
実直を絵にしたような大人をこんな風に茶化すのも実に不届きな感じがするし、うしろめたいことだな。まったくこれこそ常軌を逸した行いであったと気づき、馬頭のいさめを思い出しになって、申し訳なくなるにつれ、女のつれない気持ちは癪ではあるが、伊予介のためには情の深いことであると強いて結論づけられる。
ものまめやかなる大人を かく思ふも げにをこがましく うしろめたきわざなりや げに これぞ なのめならぬ片はなべかりける と 馬頭の諌め思し出でて いとほしきに つれなき心はねたけれど 人のためは あはれ と思しなさる
大構造と係り受け
古語探訪
ものまめやか 04027
「まめやか」そのもの。「まめやか」は実直。光のもとに真っ先に参上したことにもそれが現れている。
をこがましく 04027
「をこ(不届き)」な感じがする。
げにこれぞなのめならぬ片はなべかりけると 04027
「なのめならぬかた」は異常事態。「なべかりける」は「なるべかりける」、すなわち、そうであるはずのことだ。「げにこれぞ……なべかりけると」はここで切る。「思し出でて」にも「あはれと思しなさる」にも、意味的にかけられないからここで切るか、わかり・気づきなどの動詞の中止法を補うしかない。
馬頭のいさめ 04027
「なにがしのいやしきいさめにて、すきたわめらむ女に心おかせたまへ。過ちして見む人のかたくななる名をも立てつべきものなり」『帚木』を指す。浮気な女には注意なさい、他の男と過ちをしでかし、寝取られ男と世の笑い者になるのがおちだとのいさめ。「馬頭のいさめ思し出でて」は「人のためはあはれと思しなさる」にかかる。
いとほしき 04027
生真面目な伊予介に申し訳なく思う気持ち。
人のためはあはれ 04027
馬頭のいさめにあったように、空蝉が浮気な女であったら、世話をする男、すなわち、伊予介が寝取られた男だと世間の物笑いになるところ。しかし、空蝉はそんな女でなく、むしろ光に対して薄情であったので、その点癪の種だが、夫である伊予介にとっては情があるのだいうこと。空蝉は自分には冷たい女だが、夫にはよい妻だと考えた、その起因は「馬頭のいさめ」である点が読解のポイントである。諸注はこの点を押さえているようにない。「あはれ」は、愛情があるの意味。
思しなさる 04027
無理にそう思おうとするというニュアンス。