さすがにされたる遣 夕顔01章05

2021-03-31

原文 読み 意味

さすがに されたる遣戸口に 黄なる生絹の単袴 長く着なしたる童の をかしげなる出で来て うち招く 白き扇のいたうこがしたるを これに置きて参らせよ 枝も情けなげなめる花を とて取らせたれば 門開けて惟光朝臣出で来たるして 奉らす 鍵を置きまどはしはべりて いと不便なるわざなりや もののあやめ見たまへ分くべき人もはべらぬわたりなれど らうがはしき 大路に立ちおはしまして とかしこまり申す 引き入れて 下りたまふ

04005/難易度:☆☆☆

さすが/に され/たる/やりどぐち/に き/なる/すずし/の/ひとへ-ばかま ながく/き/なし/たる/わらは/の をかしげ/なる/いでき/て うち-まねく しろき/あふぎ/の/いたう/こがし/たる/を これ/に/おき/て/まゐらせ/よ えだ/も/なさけなげ/な/める/はな/を とて/とらせ/たれ/ば かど/あけ/て/これみつ-の-あそむ/いでき/たる/して たてまつら/す かぎ/を/おき/まどはし/はべり/て いと/ふびん/なる/わざ/なり/や もの/の/あやめ/み/たまへ/わく/べき/ひと/も/はべら/ぬ/わたり/なれ/ど らうがはしき/おほぢ/に/たち/おはしまし/て と/かしこまり/まうす ひきいれ/て おり/たまふ

さすがに洒落た引戸口に、黄色の生絹の単衣袴を長く着なした召使の愛らしい感じの童女が出て来て手招く。白い扇のよく香をたきしめ色づいたのを、「これに置いて差し上げよ。枝も風情のなさそうな花だから」と手渡したので、随人は門をあけて惟光朝臣が出てきたのに取次ぎ君に差し上げさせる。「鍵のありかを置き忘れまして、まったく不都合なことをいたしました。ものの道理を分からず、君を誰とも見分けられる人もございません界隈ながら、妄りがわしい大路にお立ちいただきまして」とかしこまり申し上げる。お車を門内に引き入れてお降りになる。

さすがに されたる遣戸口に 黄なる生絹の単袴 長く着なしたる童の をかしげなる出で来て うち招く 白き扇のいたうこがしたるを これに置きて参らせよ 枝も情けなげなめる花を とて取らせたれば 門開けて惟光朝臣出で来たるして 奉らす 鍵を置きまどはしはべりて いと不便なるわざなりや もののあやめ見たまへ分くべき人もはべらぬわたりなれど らうがはしき 大路に立ちおはしまして とかしこまり申す 引き入れて 下りたまふ

大構造と係り受け

古語探訪

されたる 04004

「曝された」の意味ではない。それでは、「さすがに」の受けるものがなくなる。貧相な家にもかかわらず洒落たの意味。

遣戸 04004

引戸。

生絹 04004

練らない夏用の薄い絹。

情けなげ 04004

「情けなげ」は風情がない・思いやりがないの意味である。夕顔はつる草なので、枝をもって手渡すことができないので、扇に載せて贈ったのであるが、つる性であることが「情けなげ」なのではない。花には枝に和歌をつけて贈るものであるが、つる性の夕顔では和歌を結んだ際に、格好がつかないことを「情けなげ」と言っているのだろう。ここらは平安人の美意識であり、ピンとこないところである。しかし、読み取りとして大事なのは、「枝も」の「も」である。何に対して枝もなのか。ふつうに考えると、枝も花も風情がないの意味であろうが、それでは、そういう花を光が所望していること自体にケチをつけることになりかねない。和歌を結べない枝も、枝の代わりに扇に書いた歌も風情がないの意味である。これまでの解釈は、夕顔の枝がどうして「情けなげ」なのか説明しようとして問題を難しくしてきたようだ。ポイントは贈答なのだから、枝でなく、贈った歌に対する謙遜の気持ちである。

不便なる 04004

不都合。

もののあやめ見たまへ分く 04004

具体的には、光の招待を見破ること。

らうがはしき 04004

乱雑な。

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