御車もいたくやつし 夕顔01章03
原文 読み 意味
御車もいたくやつしたまへり 前駆も追はせたまはず 誰れとか知らむとうちとけたまひて すこしさし覗きたまへれば 門は蔀のやうなる 押し上げたる 見入れのほどなく ものはかなき住まひを あはれに 何処かさして と思ほしなせば 玉の台も同じことなり
04003/難易度:☆☆☆
みくるま/も/いたく/やつし/たまへ/り さき/も/おは/せ/たまは/ず たれ/と/か/しら/む/と/うちとけ/たまひ/て すこし/さしのぞき/たまへ/れ/ば かど/は/しとみ/の/やう/なる おしあげ/たる みいれ/の/ほど/なく ものはかなき/すまひ/を あはれ/に いづこ/か/さし/て と/おもほし/なせ/ば たまのうてな/も/おなじ/こと/なり
お車もたいそう目立たないものになさり、先払いもおさせにならないので、誰と知れようはずもないと気をお許しになって、すこし覗きこむようになさると、門は蔀風のものを押し上げた扉の、見入るほどの奥行きもなく非常にはかない感じのする、住まいを愛情をもって、どこをさして我が家と言えよう仮の世の中で、と思いなしになると、豪邸も貧家も変わりはない。
御車もいたくやつしたまへり 前駆も追はせたまはず 誰れとか知らむとうちとけたまひて すこしさし覗きたまへれば 門は蔀のやうなる 押し上げたる 見入れのほどなく ものはかなき住まひを あはれに 何処かさして と思ほしなせば 玉の台も同じことなり
大構造と係り受け
古語探訪
やつし 04003
わざと目立たずみすぼらしくすること。具体的には網代車を飾り立てずに使用したのだろう。
前駆 04003
先回りして、貴人が通ることを知らせ、通るのに支障のあるもの(人をふくむ)をあらかじめ取り除く役。
門は蔀やうなる押し上げたる 04003
今の扉のように回転軸が垂直にあるのではなく、横木を軸に上下に上げ下げするもの。
あはれに 04003
すでに愛情の兆しがこもる。単なる同情ではない。
何処かさして 04003
「世の中はいづれかさしてわがならむ行きとまるをぞ宿とさだむる(この仮の世の中でいったいどこを自分の家だと言えようか、行き止まったところを今夜の宿にしよう)」(古今六帖)を下にしく。「玉の台も同じことなり」はこの家と同様、金殿玉楼も所詮は仮の宿なのだの意味。