さてこれより人少な 夕顔08章05

2021-04-23

原文 読み 意味

さて これより人少ななる所はいかでかあらむ とのたまふ げに さぞはべらむ かの故里は 女房などの 悲しびに堪へず 泣き惑ひはべらむに 隣しげく とがむる里人多くはべらむに おのづから聞こえはべらむを 山寺こそ なほかやうのこと おのづから行きまじり 物紛るることはべらめ と 思ひまはして 昔 見たまへし女房の 尼にてはべる東山の辺に 移したてまつらむ 惟光が父の朝臣の乳母にはべりし者の みづはぐみて住みはべるなり 辺りは 人しげきやうにはべれど いとかごかにはべり と聞こえて 明けはなるるほどの紛れに 御車寄す

04102/難易度:☆☆☆

さて これ/より/ひとずくな/なる/ところ/は/いかでか/あら/む と/のたまふ げに さ/ぞ/はべら/む かの/ふるさと/は にようばう/など/の かなしび/に/たへ/ず なき/まどひ/はべら/む/に となり/しげく とがむる/さとびと/おほく/はべら/む/に おのづから/きこエ/はべら/む/を やまでら/こそ なほ/かやう/の/こと おのづから/ゆき/まじり もの/まぎるる/こと/はべら/め/と おもひ/まはし/て むかし み/たまへ/し/にようばう/の あま/にて/はべる/ひむがしやま/の/あたり/に うつし/たてまつら/む これみつ/が/ちち/の/あそむ/の/めのと/に/はべり/し/もの/の みづはぐみ/て/すみ/はべる/なり あたり/は ひと/しげき/やう/に/はべれ/ど いと/かごか/に/はべり と/きこエ/て あけ/はなるる/ほど/の/まぎれ/に みくるま/よす

「そうであっても、ここより人少なな場所はあったりしようか」とおっしゃる。「まったくそうではございましょう。あの元の場所は、女房などが悲しみにくれたえず泣きくずれることぶなりましょうから、家々がたてこんでおり、不審を抱く里人が多くいましょうゆえ、ついつい漏れ広がりましょう。山寺こそ何と言ってもこういう場合自然と足のむく場所で、大事なことも世に現れずにすむものです」と、いろいろ記憶をたどってから、「昔つきあった女房が尼になっております東山のあたりにお移し申しましょう。わたくしの父である朝臣の乳母でございました者が、老いの身で住んでおります。あたりは人気が多そうに聞こえましょうが、たいそうひっそりと奥まったところです」と申し上げて、夜が明けきる時分のあわただしさにまぎれて、御車を寄せる。

さて これより人少ななる所はいかでかあらむ とのたまふ げに さぞはべらむ かの故里は 女房などの 悲しびに堪へず 泣き惑ひはべらむに 隣しげく とがむる里人多くはべらむに おのづから聞こえはべらむを 山寺こそ なほかやうのこと おのづから行きまじり 物紛るることはべらめ と 思ひまはして 昔 見たまへし女房の 尼にてはべる東山の辺に 移したてまつらむ 惟光が父の朝臣の乳母にはべりし者の みづはぐみて住みはべるなり 辺りは 人しげきやうにはべれど いとかごかにはべり と聞こえて 明けはなるるほどの紛れに 御車寄す

大構造と係り受け

古語探訪

さて 04102

そうであってもの意味。

いかでかあらむ 04102

ないという意味の反語。

かの故里 04102

五条あたりの夕顔がもといた家。

泣き惑ひはべらむ 04102

未来のこと。今、主人である夕顔がいなくて泣きまどっているというのではなく、夕顔が死んだとなったら泣きまどうだろうということ。

隣しげく 04102

隣近所と家が建てこんでいる状態。

行きまじり 04102

行くことが交じる、すなわち、そういう場合には、Aさんも行き、Bさんも行き、Cさんも行くということ。

みづはぐみ 04102

たいそう年を取ること。

辺りは人しげきやう 04102

AさんもBさんもCさんも来るから、人が多そうに思えるでしょうがと、「行きまじり」に対する補い。

かごかに 04102

物の蔭になったようにひっそりとした場所であること。

明けはなるる 04102

夜が明けきることか。太陽が地平線から出きること言うのではないかと想像する。

紛れ 04102

鳥の鳴き声で目がさめ、夜明けとともに人々は活動し始めるから、その騒動に紛れてということ。

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