からうして鶏の声は 夕顔07章21
原文 読み 意味
からうして 鶏の声はるかに聞こゆるに 命をかけて 何の契りに かかる目を見るらむ 我が心ながら かかる筋に おほけなくあるまじき心の報いに かく 来し方行く先の例となりぬべきことはあるなめり 忍ぶとも 世にあること隠れなくて 内裏に聞こし召さむをはじめて 人の思ひ言はむこと よからぬ童べの口ずさびになるべきなめり ありありて をこがましき名をとるべきかな と 思しめぐらす
04097/難易度:☆☆☆
からうして とり/の/こゑ/はるか/に/きこゆる/に いのち/を/かけ/て なに/の/ちぎり/に かかる/め/を/みる/らむ わが/こころ/ながら かかる/すぢ/に おほけなく/あるまじき/こころ/の/むくイ/に かく きしかた/ゆくさき/の/ためし/と/なり/ぬ/べき/こと/は/ある/な/めり しのぶ/とも よ/に/ある/こと/かくれ/なく/て うち/に/きこしめさ/む/を/はじめ/て ひと/の/おもひ/いは/む/こと よから/ぬ/わらはべ/の/くちずさび/に/なる/べき/な/めり ありありて をこがましき/な/を/とる/べき/かな/と おぼし/めぐらす
ようやくにして鳥の声が遠くで聞こえると、命を賭してまで、何の因業でこんな目に遭うのだろう、わがことながら、ああした筋のお方に身のほど知らずにも許されざる恋着をした報いに、前世から来世にわたるこんな因縁の例になってしまう災厄が起きるのだろうな。隠しても世の出来事は隠れないもので、帝のお耳に入るはおろか、世間が思い言いそやすことを、たちの悪い京童がおもしろおかしく囃すに違いない、とどのつまりが、痴れ者の汚名をかぶることになろうなと、あれこれ思いめぐらしになる。
からうして 鶏の声はるかに聞こゆるに 命をかけて 何の契りに かかる目を見るらむ 我が心ながら かかる筋に おほけなくあるまじき心の報いに かく 来し方行く先の例となりぬべきことはあるなめり 忍ぶとも 世にあること隠れなくて 内裏に聞こし召さむをはじめて 人の思ひ言はむこと よからぬ童べの口ずさびになるべきなめり ありありて をこがましき名をとるべきかな と 思しめぐらす
大構造と係り受け
古語探訪
かかる筋に 04097
「おほけなくあるまじき(身のほど知らずであってはならない)」の意味から考え、藤壺への思いである。
来し方行く先の例 04097
過去にも未来にも例となるとでもなり、意味がよくつかめない。過去にも未来にも稀な例ということか。
なりぬべきこと 04097
「こと」は形式名詞ではない。具体的な事柄であり、この場合は夕顔を死なせたことである。源氏物語の時代には形式名詞の用法はまだ未発達だとされている。
世にあること 04097
「こと」もそれぞれの出来事の意味。
人の思ひ言はむこと 04097
「こと」も、世間の人が考え口にする具体的な悪口を指す。
ありありて 04097
どう考えても結局のところ。
をこがましき 04097
物笑いの。