夜中も過ぎにけむか 夕顔07章17
原文 読み 意味
夜中も過ぎにけむかし 風のやや荒々しう吹きたるは まして 松の響き 木深く聞こえて 気色ある鳥のから声に鳴きたるも 梟 はこれにやとおぼゆ うち思ひめぐらすに こなたかなた けどほく疎ましきに 人声はせず などて かくはかなき宿りは取りつるぞ と 悔しさもやらむ方なし
04093/難易度:☆☆☆
よなか/も/すぎ/に/けむ/かし かぜ/の/やや/あらあらしう/ふき/たる/は まして まつ/の/ひびき こぶかく/きこエ/て けしき/ある/とり/の/からごゑ/に/なき/たる/も ふくろふ/は/これ/に/や/と/おぼゆ うち-おもひめぐらす/に こなた/かなた けどほく/うとましき/に ひとごゑ/は/せ/ず などて かく/はかなき/やどり/は/とり/つる/ぞ/と くやしさ/も/やら/む/かた/なし
夜中も過ぎたのだろうな、風がすこし荒々しく吹いているのは。まして、松籟の音が木深く聞こえ、妖しげな鳥がしわがれ声で鳴きまでする。不吉と言われる梟とはこれかとお思いになる。改めてあれこれ考えてみるに、こちらにもあちらにも人気に遠く気味が悪いうえに、従者の声も聞こえず、どうしてこんな意味のない宿をとったのかと、後悔するもののどうにもならない。
夜中も過ぎにけむかし 風のやや荒々しう吹きたるは まして 松の響き 木深く聞こえて 気色ある鳥のから声に鳴きたるも 梟 はこれにやとおぼゆ うち思ひめぐらすに こなたかなた けどほく疎ましきに 人声はせず などて かくはかなき宿りは取りつるぞ と 悔しさもやらむ方なし
大構造と係り受け
古語探訪
夜中も過ぎにけむかし風のやや荒々しう吹きたるは 04093
倒置である。風の吹き方により、時間を推し量るのである。「たとしへなく静かなる夕」から「風すこしうち吹きたるに」と変り、今また風が強まった。時間の推移を感じると同時に、物の怪の魔力を想像させる。
まして 04093
難しい。夜中が過ぎた理由として風の吹き方のみならず、ましたる理由として松の響きと鳥の鳴き声をあげているのである。「鳥のから声に鳴きたるは」とあるべきところを「まして」をつけることで「鳴きたるも」としたのである。「梟」は不吉な鳥と考えられていた。
うち思ひめぐらす 04093
「うち」は意識して。
けどほく 04093
人気遠く。
人声 04093
従者の声。け遠くとあるから一般の人の声がないのは当然であり、改めて言う必要がない。
はかなき 04093
実りがないこと。ここに宿をとったことに何の益もなかったということ。心細いという意味ではない。この語から察するに、光はある目的をもってこの宿を選んだのである。それは、夕顔がどこまでも自分との距離をつめないので、怖がる性質を利用して、その距離を一挙に埋めようという魂胆があっただろう。しかし、その思惑ははかなく消えたのである。