紙燭持て参れり右近 夕顔07章11
原文 読み 意味
紙燭持て参れり 右近も動くべきさまにもあらねば 近き御几帳を引き寄せて なほ持て参れ とのたまふ 例ならぬことにて 御前近くもえ参らぬ つつましさに 長押にもえ上らず なほ持て来や 所に従ひてこそ とて 召し寄せて見たまへば ただこの枕上に 夢に見えつる容貌したる女 面影に見えて ふと消え失せぬ
04087/難易度:☆☆☆
しそく/もて/まゐれ/り うこん/も/うごく/べき/さま/に/も/あら/ね/ば ちかき/みきちやう/を/ひきよせ/て なほ/もて/まゐれ と/のたまふ れい/なら/ぬ/こと/にて おまへ/ちかく/も/え/まゐら/ぬ つつましさ/に なげし/に/も/え/のぼら/ず なほ/もて/こ/や ところ/に/したがひ/て/こそ とて めし/よせ/て/み/たまへ/ば ただ/この/まくらがみ/に ゆめ/に/みエ/つる/かたち/し/たる/をむな おもかげ/に/みエ/て ふと/きエ/うせ/ぬ
男が紙燭を持ってまいった。右近も動ける様子でもないので、手近かの御几帳を引き寄せ夕顔を隠し、「いいから持って来い」とご命じになる。閨へ呼びたてられることなど尋常ならぬことであり、お側近くにも参り来ぬ遠慮深さから、長押にも上がれない。「いいから持って来るんだ。所柄に従うのが」と、紙燭を召し寄せてごらんになると、この枕上に夢で見た容貌をした女が、ほんの幻のように見えてふと消えうせた。
紙燭持て参れり 右近も動くべきさまにもあらねば 近き御几帳を引き寄せて なほ持て参れ とのたまふ 例ならぬことにて 御前近くもえ参らぬ つつましさに 長押にもえ上らず なほ持て来や 所に従ひてこそ とて 召し寄せて見たまへば ただこの枕上に 夢に見えつる容貌したる女 面影に見えて ふと消え失せぬ
大構造と係り受け
古語探訪
右近も 04087
夕顔同様に右近も。
近き御几帳を引き寄せて 04087
男の目に夕顔をさらさないため。
なほ持て参れ 04087
「なほ」は、遠慮したくもなろうが構わないからという感じ。
例ならぬことにて 04087
「長押にもえのぼらず」にかかることから考え、この普通でないは、夕顔が死にかけていることではなく、女と閨にいる場へ呼び出された状況を示す。
御前 04087
男が使える主人である光。
長押 04087
下長押。廂と簀子の間にあり、簀子から廂が一段高くなっている。その段差のあるところの上にある横木が長押だが、長押の下の段差空間全体をいうことが多い。
所に従ひてこそ 04087
「よけれ」などが省略されている。遠慮も場所によってするのがよい、すなわち、今は遠慮している場合ではないということ。
ただこの枕上に 04087
「ただ」は「ただこの」とかかるのではなく、「面影に見えてふと消え失せぬ」にかかる。
面影に見えて 04087
幻のように見えて。最初から幻だと見たわけでなく、結果として幻だと判断したのである。