いとうたて乱り心地 夕顔07章10

2021-04-23

原文 読み 意味

いとうたて 乱り心地の悪しうはべれば うつぶし臥してはべるや 御前にこそわりなく思さるらめ と言へば そよ などかうは とて かい探りたまふに 息もせず 引き動かしたまへど なよなよとして 我にもあらぬさまなれば いといたく若びたる人にて 物にけどられぬるなめり と せむかたなき心地したまふ

04086/難易度:☆☆☆

いと/うたて みだりごこち/の/あしう/はべれ/ば うつぶし/ふし/て/はべる/や おまへ/に/こそ/わりなく/おぼさ/る/らめ と/いへ/ば そよ など/かう/は とて かい-さぐり/たまふ/に いき/も/せ/ず ひき/うごかし/たまへ/ど なよなよ/と/し/て われ/に/も/あら/ぬ/さま/なれ/ば いと/いたく/わかび/たる/ひと/にて もの/に/けどら/れ/ぬる/な/めり/と せむかたなき/ここち/し/たまふ

「とてももう、気分がひどくしようがありませんから、うつ伏しているのでございますよ。ご主人様こそどうにも恐ろしく思っておいででしょう」と答えると、「そのことよ、どうしてこうも」と強く探ってごらんになると息もしていない。引き動かしてみられるが、ぐったりと正気のない様子からすると、とてもとても幼々した人だから、物の怪に魂を取られてしまったのだろうと、手の施しようがないお気持ちになられる。

いとうたて 乱り心地の悪しうはべれば うつぶし臥してはべるや 御前にこそわりなく思さるらめ と言へば そよ などかうは とて かい探りたまふに 息もせず 引き動かしたまへど なよなよとして 我にもあらぬさまなれば いといたく若びたる人にて 物にけどられぬるなめり と せむかたなき心地したまふ

大構造と係り受け

古語探訪

うたて 04086

あしうはべれば」にかかる副詞。自分にはどうにもならない状況が勝手に進行してゆく感覚を傍観している感じ。

御前 04086

主人である夕顔を指す。

わりなく 04086

処置なし。「うたてし」が傍観している余裕があるのに対して、どうにもならない感じ。「わりなく」はここでは、思すの内容(わりなしと思す)ではなく、思すの程度状態であろう。どうにもならないほどひどく思う(怖がる)ということ。

そよ 04086

相手の発言を、うなづきながら取り上げる時の言葉。

かい探り 04086

前の「探り」より荒々しい。次にはさらに強くなって「引き動かし」となる。

我にもあらぬさま 04086

先の「我かの気色なり」よりも状態が悪化している。正気が失せかけている状態からほとんどない状態に深刻化している。

さまなれば 04086

「なめり」という判断にかかってゆき、物事を判断する根拠を示す表現。「已然形+ば」は原因結果という事柄の動きのみを示すのではなく、判断の根拠を示しうる。

若びたる 04086

年齢よりも若いことを非難している語。

人にて 04086

「にて」は判断の理由。このように、事実としての根拠をあげ「已然形+ば」、その内面的理由「にて」をかんがみて、判断を下す場合が多い。

せむかたなき心地 04086

あきらめの気分。

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