たとしへなく静かな 夕顔06章13

2021-04-22

原文 読み 意味

たとしへなく静かなる夕べの空を眺めたまひて 奥の方は暗うものむつかしと 女は思ひたれば 端の簾を上げて 添ひ臥したまへり 夕映えを見交はして 女も かかるありさまを 思ひのほかにあやしき心地はしながら よろづの嘆き忘れて すこしうちとけゆく気色 いとらうたし つと御かたはらに添ひ暮らして 物をいと恐ろしと思ひたるさま 若う心苦し 格子とく下ろしたまひて 大殿油参らせて 名残りなくなりにたる御ありさまにて なほ心のうちの隔て残したまへるなむつらき と 恨みたまふ

04075/難易度:☆☆☆

たとしへなく/しづか/なる/ゆふべ/の/そら/を/ながめ/たまひ/て おく/の/かた/は くらう/もの-むつかし/と をむな/は/おもひ/たれ/ば はし/の/すだれ/を/あげ/て そひ/ふし/たまへ/り ゆふばエ/を/みかはし/て をむな/も かかる/ありさま/を おもひ/の/ほか/に/あやしき/ここち/は/し/ながら よろづ/の/なげき/わすれ/て すこし/うちとけ/ゆく/けしき いと/らうたし つと/おほむ-かたはら/に/そひ/くらし/て もの/を/いと/おそろし/と/おもひ/たる/さま わかう/こころぐるし かうし/とく/おろし/たまひ/て おほとなぶら/まゐら/せ/て なごり/なく/なり/に/たる/おほむ-ありさま/にて なほ/こころ/の/うち/の/へだて/のこし/たまへ/る/なむ/つらき/と うらみ/たまふ

二度とないほど静かな夕べの空をぼんやりと眺めておられえると、部屋の奥は暗く何とも気味がわるいと女が思うので、簀子につづく簾をあげて女に添い臥しになった。夕映えする顔を見交わして、女もこのようになった事態を思いもかけぬことで解しかねる気持ちはしながら、あらゆる嘆きを忘れてすこしうちとけてゆく様子はとてもかわいい。じっとお側に寄り添ったなりで、わけなく何ににでも無性におびえている様は幼く気が気でない。格子を急いでおろしになり、灯りをもって来させて、「残りなくずべて許し合った仲なのに、まだ心の中に隔てを残しておられるのはつれない」と恨み言をおっしゃる。

たとしへなく静かなる夕べの空を眺めたまひて 奥の方は暗うものむつかしと 女は思ひたれば 端の簾を上げて 添ひ臥したまへり 夕映えを見交はして 女も かかるありさまを 思ひのほかにあやしき心地はしながら よろづの嘆き忘れて すこしうちとけゆく気色 いとらうたし つと御かたはらに添ひ暮らして 物をいと恐ろしと思ひたるさま 若う心苦し 格子とく下ろしたまひて 大殿油参らせて 名残りなくなりにたる御ありさまにて なほ心のうちの隔て残したまへるなむつらき と 恨みたまふ

大構造と係り受け

古語探訪

たとしへなく 04075

他に比べようなく。

眺め 04075

見るともなくぼんやりと見る。「ながめたまひて」は「添ひ臥したまへり」にかかる。

ものむつかし 04075

気味の悪さ。

端の簾 04075

簀子(スノコ)と廂(ヒサシ)、すなわち、縁側と部屋との間のすだれ。

夕映え 04075

夕日で赤く染まったもの。この場合は「見かはし」とあるので互いの顔である。

あやしき 04075

解釈しきれない違和感。

つと 04075

動かない様子。

添ひ暮らし 04075

寄り添ったまま時間が経過する。

物を 04075

何に対しても無性に。

心苦し 04075

相手の様子にこちらの心も痛む意。見ていられず何とかしてやりたい。

名残りなく 04075

名残がない。

つらき 04075

男女間では冷たい、薄情だの意味。

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