惟光いささかのこと 夕顔04章07
原文 読み 意味
惟光 いささかのことも御心に違はじと思ふに おのれも隈なき好き心にて いみじくたばかりまどひ歩きつつ しひておはしまさせ初めてけり このほどのこと くだくだしければ 例のもらしつ
04046/難易度:☆☆☆
これみつ いささか/の/こと/も/みこころ/に/たがは/じ/と/おもふ/に おのれ/も/くまなき/すきごころ/にて いみじく/たばかり/まどひ/ありき/つつ しひて/おはしまさ/せ/そめ/て/けり この/ほど/の/こと くだくだしけれ/ば れい/の/もらし/つ
惟光は、どんなに些細な事柄でも、君のご意向にそむくまいと思うだけでなく、みずからも抜け目のない好き者なので、いろいろと策を練って奔走し、無理に君がお通い初められるよう取り計らった。この間の事情は、わずらわしいので、例のごとく省いておく。
惟光 いささかのことも御心に違はじと思ふに おのれも隈なき好き心にて いみじくたばかりまどひ歩きつつ しひておはしまさせ初めてけり このほどのこと くだくだしければ 例のもらしつ
大構造と係り受け
古語探訪
惟光 04046
書き下せば、光のことを惟(オモ)うと読めると先に注した。「いささかのことも御心に違はじと思ふ」がこれにあたる。しかし、女にわたりをつけるには、主を思うだけでは成功しない。自身も好き者で、わたりをつける術にたけている必要がある。「隈なき好き心」がそれ。その惟光をもって策を弄し、足を棒にして、主のために奔走した結果、無事に光は夕顔のもとへ通いはじめることができたのである。もっとも、主思いである性格と、好色である性格が、主人を夕顔のもとに通わせる目的にはともにプラスに働いたが、好色漢の性格が先走れば、夕顔への横恋慕という危険も孕んでいるのである。この主人思いないしは友達思いである点(まめさ)と、好き者である点(あださ)が、いろいろな割合で相をかえて、源氏の主要人物たちをつき動かして行く。これが源氏物語の世界ともいえようが、端役である惟光にはやくもそうした二重性格がほのみえるところが、物語の構造上面白いところである。
もらし 04046
他動詞。「このほどのこと」をもらしてある。