一日前駆追ひて渡る 夕顔04章03
原文 読み 意味
一日 前駆追ひて渡る車のはべりしを 覗きて 童女の急ぎて 右近の君こそ まづ物見たまへ 中将殿こそ これより渡りたまひぬれ と言へば また よろしき大人出で来て あなかまと 手かくものから いかでさは知るぞ いで 見む とて はひ渡る 打橋だつものを道にてなむ 通ひはべる 急ぎ来るものは 衣の裾を物に引きかけて よろぼひ倒れて 橋よりも落ちぬべければ いで この葛城の神こそ さがしうしおきたれ と むつかりて 物覗きの心も冷めぬめりき
04042/難易度:☆☆☆
ひとひ さき/おひ/て/わたる/くるま/の/はべり/し/を のぞき/て わらはべ/の/いそぎ/て うこん-の-きみ/こそ まづ/もの/み/たまへ ちうじやう-どの/こそ これ/より/わたり/たまひ/ぬれ と/いへ/ば また よろしき/おとな/いでき/て あなかま/と て/かく/ものから いかで/さ/は/しる/ぞ いで み/む とて はひ/わたる うちはし-だつ/もの/を/みち/にて/なむ/かよひ/はべる いそぎ/くる/もの/は きぬ/の/すそ/を/もの/に/ひき-かけ/て よろぼひ/たふれ/て はし/より/も/おち/ぬ/べけれ/ば いで この/かづらき-の-かみ/こそ さがしう/し/おき/たれ/と むつかり/て もの/のぞき/の/こころ/も/さめ/ぬ/めり/き
ある日、先払いをつけて通る車がありましたのをのぞき見て、女童があわてて、右近の君、早くごらんになって。中将殿が前をお通りだわと呼ばわれば、続いて見てくれのよい年増のご登場、静かにと、手振りで制止しながら、どうしてそうとわかろう。どれどれ、と忍び足でやって参ります。打橋らしきもののを渡るのですが、急いで来るものだから、衣服の裾を何かに引っ掛けて、よろめき倒れかかりあわや橋から落っこちそうになったので、もう、この葛城の神様ったら、急な橋をこさえたものだと腹を立て、のぞき見る気持ちもさめてしまったようです。
一日 前駆追ひて渡る車のはべりしを 覗きて 童女の急ぎて 右近の君こそ まづ物見たまへ 中将殿こそ これより渡りたまひぬれ と言へば また よろしき大人出で来て あなかまと 手かくものから いかでさは知るぞ いで 見む とて はひ渡る 打橋だつものを道にてなむ 通ひはべる 急ぎ来るものは 衣の裾を物に引きかけて よろぼひ倒れて 橋よりも落ちぬべければ いで この葛城の神こそ さがしうしおきたれ と むつかりて 物覗きの心も冷めぬめりき
大構造と係り受け
古語探訪
あなかま 04042
「あな、かまし」で、ああうるさいの意味。
ものから 04042
…しながらも。
急ぎ来るものは 04042
急ぎ来るものだからの意味。
葛城の神 04042
葛城山の神(一言主神ヒトコトヌシノカミ)で、役行者(エンノギョウジャ)から、金峰山(キンプザン)と葛城山との間に橋をかけるように命じられたとの伝説がある。なお、この神は顔が醜く、昼は働かなかったので、橋は未完成に終わったという。
物覗き 04042
「もの」は人智では推し量りがたいもの、到達しえないものであり、もののけのものと同じ。中将か誰かわからないので、ものといったのである。