一日前駆追ひて渡る 夕顔04章03

2021-04-18

原文 読み 意味

一日 前駆追ひて渡る車のはべりしを 覗きて 童女の急ぎて 右近の君こそ まづ物見たまへ 中将殿こそ これより渡りたまひぬれ と言へば また よろしき大人出で来て あなかまと 手かくものから いかでさは知るぞ いで 見む とて はひ渡る 打橋だつものを道にてなむ 通ひはべる 急ぎ来るものは 衣の裾を物に引きかけて よろぼひ倒れて 橋よりも落ちぬべければ いで この葛城の神こそ さがしうしおきたれ と むつかりて 物覗きの心も冷めぬめりき

04042/難易度:☆☆☆

ひとひ さき/おひ/て/わたる/くるま/の/はべり/し/を のぞき/て わらはべ/の/いそぎ/て うこん-の-きみ/こそ まづ/もの/み/たまへ ちうじやう-どの/こそ これ/より/わたり/たまひ/ぬれ と/いへ/ば また よろしき/おとな/いでき/て あなかま/と て/かく/ものから いかで/さ/は/しる/ぞ いで み/む とて はひ/わたる うちはし-だつ/もの/を/みち/にて/なむ/かよひ/はべる いそぎ/くる/もの/は きぬ/の/すそ/を/もの/に/ひき-かけ/て よろぼひ/たふれ/て はし/より/も/おち/ぬ/べけれ/ば いで この/かづらき-の-かみ/こそ さがしう/し/おき/たれ/と むつかり/て もの/のぞき/の/こころ/も/さめ/ぬ/めり/き

ある日、先払いをつけて通る車がありましたのをのぞき見て、女童があわてて、右近の君、早くごらんになって。中将殿が前をお通りだわと呼ばわれば、続いて見てくれのよい年増のご登場、静かにと、手振りで制止しながら、どうしてそうとわかろう。どれどれ、と忍び足でやって参ります。打橋らしきもののを渡るのですが、急いで来るものだから、衣服の裾を何かに引っ掛けて、よろめき倒れかかりあわや橋から落っこちそうになったので、もう、この葛城の神様ったら、急な橋をこさえたものだと腹を立て、のぞき見る気持ちもさめてしまったようです。

一日 前駆追ひて渡る車のはべりしを 覗きて 童女の急ぎて 右近の君こそ まづ物見たまへ 中将殿こそ これより渡りたまひぬれ と言へば また よろしき大人出で来て あなかまと 手かくものから いかでさは知るぞ いで 見む とて はひ渡る 打橋だつものを道にてなむ 通ひはべる 急ぎ来るものは 衣の裾を物に引きかけて よろぼひ倒れて 橋よりも落ちぬべければ いで この葛城の神こそ さがしうしおきたれ と むつかりて 物覗きの心も冷めぬめりき

大構造と係り受け

古語探訪

あなかま 04042

「あな、かまし」で、ああうるさいの意味。

ものから 04042

…しながらも。

急ぎ来るものは 04042

急ぎ来るものだからの意味。

葛城の神 04042

葛城山の神(一言主神ヒトコトヌシノカミ)で、役行者(エンノギョウジャ)から、金峰山(キンプザン)と葛城山との間に橋をかけるように命じられたとの伝説がある。なお、この神は顔が醜く、昼は働かなかったので、橋は未完成に終わったという。

物覗き 04042

「もの」は人智では推し量りがたいもの、到達しえないものであり、もののけのものと同じ。中将か誰かわからないので、ものといったのである。

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