また内々にもわざと 夕顔15章02
原文 読み 意味
また 内々にもわざとしたまひて こまやかにをかしきさまなる櫛 扇多くして 幣などわざとがましくて かの小袿も遣はす
逢ふまでの形見ばかりと見しほどにひたすら袖の朽ちにけるかな
こまかなることどもあれど うるさければ書かず
04179/難易度:☆☆☆
また うちうち/に/も/わざと/し/たまひ/て こまやか/に/をかしき/さま/なる/くし あふぎ/おほく/し/て ぬさ/など/わざとがましく/て かの/こうちき/も/つかはす
あふ/まで/の/かたみ/ばかり/と/み/し/ほど/に/ひたすら/そで/の/くち/に/ける/かな
こまか/なる/こと-ども/あれ/ど うるさけれ/ば/かか/ず
さらに、伊予介には内々にことさらに餞別を贈られ、精密な見た目の美しい櫛や扇をたくさんそろえ、道中の無事を祈る幣などもわざわざし立てたという感じにして、例の小袿もお遣わしになる。
《再会を果たすまでの形見くらいに思っているうちに 涙で袖がすっかり朽ちてしまったなあ》
ほかにもこまごまとしたことがあるけれども、煩わしいので書かない。
また 内々にもわざとしたまひて こまやかにをかしきさまなる櫛 扇多くして 幣などわざとがましくて かの小袿も遣はす
逢ふまでの形見ばかりと見しほどにひたすら袖の朽ちにけるかな
こまかなることどもあれど うるさければ書かず
大構造と係り受け
古語探訪
内々に 04179
伊予介には内緒で。
わざと 04179
ことさらに、わざわざ。語り手の評。
扇 04179
「逢ふ(ぎ)」の意味を込め、旅の無事と再会を祈る贈物という。
わざとがましく 04179
これも、空蝉にはいささか意図的にうつるのであろう。
朽ちにける 04179
逢いたいのに逢えないことによる涙で。
こまかなることどもあれどうるさければ書かず 04179
虚構の物語を現実にあったことのように感じさせる手法との説明があるがどうだろう。結果としての効果の説明としてはそれでいいだろうが、この帖の末尾部分との関連でみると、どうも紫式部自体が、実際に読み手である、たとえば彰子だとか道長だとかに、断り書きしているように思われる。物語を書きながら、現実をちょっと取り入れることで、わかる人にだけわかる喜びを与えているのではないか。例えば、映画のワンシーンで俳優が、自分の恋人にだけわかる仕種でサインを送るようなことが、読者サービスとしてあったのではないか。